ついにOTC登場か!?睡眠薬「ロゼレム」の効果と副作用を徹底解説!!

薬学

はじめに

現在日本では多くのストレスを抱える方が増え、それに伴い十分に睡眠を取れない方も増加してしまっています。実際に、厚生労働省の令和4年(2022)「国民健康・栄養調査」によると、最近1ヶ月間睡眠で休養が十分取れていないと感じる方が、20%を超える結果が出ていました。それに対し、病院にかかって睡眠薬を処方してもらうのはややハードルが高いと思われます。

そこで、気軽に手に入れることができる睡眠改善薬には「ドリエル(ジフェンヒドラミン)」があります。この薬はもともとかゆみ止めとして存在した薬であり、その副作用に眠気があったものを応用した形のものです。基本的には定期的に飲むことが推奨されておらず、また副作用が結構多いことも難点でした。

医療用医薬品としては良く用いられている、トリアゾラムを始めとしたベンゾジアゼピン系や、ゾルピデムなどの非ベンゾジアゼピン系などがありますが、乱用性や安全性などを考慮すると市販薬になることはないと思われます。

その中で、比較的安全性が担保され、かつ長期服用に適している「ロゼレム」のスイッチOTC化が了承されたというニュースが飛び込んできました。これはとても驚きであり、不眠症で悩まれている方にとってはとても有意義なことだと思われます。そこで今回は、薬剤師視点から「ロゼレム」に関してわかりやすく効果や副作用などを解説していきます。

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1. ロゼレム(ラメルテオン)の概要

ロゼレムの主成分はラメルテオンであり、そのメカニズムは従来の「睡眠薬」と呼ばれる薬(例えばベンゾジアゼピン系薬剤)とは全く異なります。この薬は、体内リズム(概日リズム)を整えることで、自然な入眠や覚醒を促す薬として知られています。

1-1. ロゼレムの作用機序

ロゼレムは、視床下部にあるメラトニン受容体(MT1およびMT2)に選択的に作用することで、入眠をサポートします。メラトニン受容体は睡眠と覚醒のリズムを調整する上で重要な役割を果たします。

  • MT1受容体
    深部体温や血圧を低下させることで、身体を休息状態に導きます。これにより、睡眠を誘発する働きを担います。
  • MT2受容体
    概日リズム(体内時計)の調整を主な役割とし、夜間の睡眠と日中の覚醒リズムを正常化します。これにより、日没後に眠くなり、日の出とともに自然に目覚めるリズムが整います。

1-2. ロゼレムの具体的な効果

メーカーが行った臨床試験では、常用量である就寝前8mgの投与を行った結果、自覚的な眠りにつくまでの時間(入眠潜時)が改善されました。例えば、元々の眠りにつくまでの時間が70分強であった患者群では、投与1週後に約16分、4週後には約27分の短縮が見られました。その後も緩やかな短縮が続き、16週後には効果が横ばいに到達し、24週目には約32分程度の短縮効果が得られました。

さらには、睡眠総時間の延長、途中覚醒の回数が平均1回程度の減少も認められています。これにより、患者の睡眠の質がさらに向上し、日中の眠気や疲労感が改善されたことが示されています。

特筆すべきは、ロゼレム投与後の睡眠改善が持続し、薬物中止後もほとんど変化が見られなかった点です。これにより、従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD系薬)で見られるような反跳性不眠(薬物中止後に症状が悪化する現象)は認められませんでした。この特徴は、依存性や耐性、反跳性不眠のリスクが少ない点で、ロゼレムの大きな利点といえます。

1-3. 従来の睡眠薬との違い

現在、医療用医薬品として主に使用されている睡眠薬は、作用機序の違いに基づいて大きく3つに分類できます。GABA系に関与するベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬1(以下、BZD系薬)、覚醒系を抑制するオレキシン受容体拮抗薬(以下、OX拮抗薬)、そして「ロゼレム」が属するメラトニン受容体作動薬(以下、MT作動薬)です。

かつて睡眠薬の主流だったのは、BZD系薬でした。この系統の薬は、催眠作用が非常に強力であり、不眠症をはじめとする睡眠障害の治療に広く用いられてきました。しかし、BZD系薬は脳内のGABA受容体に広範に作用するため、睡眠促進作用以外にも、抗不安作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用などを引き起こします。このように、長期使用により依存性や耐性が生じやすく、また筋弛緩作用による転倒リスクや、睡眠の質が低下する問題が指摘されてきました。

これに対し、ロゼレムのようなMT作動薬は、GABA系にはほとんど作用せず、脳内のメラトニン受容体を活性化することでのみ体内時計を調整し、自然な眠りを誘発します。そのため、高齢者や認知症の方、器質性疾患を持っている方などに安全性が高い選択肢として評価されています。近年では、BZD系薬が主流だったものが、OX拮抗薬とMT作動薬の併用に変わりつつあります。

種類BZD系薬OX拮抗薬MT作動薬(ロゼレム)
作用機序ベンゾジアゼピン受容体作動薬オレキシン受容体拮抗薬メラトニン受容体作動薬
メリット種類が豊富で対応力がある自然睡眠に近い自然睡眠に近い
併用してはいけない薬が非常に少ない
デメリット併用してはいけない薬が多い
特に高齢者では使いづらい
(認知機能低下、転倒など)
吸収率が食事に影響を受けやすい
特殊な副作用(悪夢、疲労感など)がある
効果に個人差がある
即効性は期待できない
他眠剤からの切り替えが難しい
依存性高い低い非常に低い
持続時間その薬による(超短時間〜長時間)中時間短〜中時間
臨床的使用例不眠症
不安症
鎮静
(すべての症例は薬による )
不眠症
ナルコレプシー
入眠困難の改善
時差ボケ

市販薬として既存である、睡眠改善薬のドリエルをはじめとした「クロルフェニラミン」は、上記の睡眠薬という概念から離れたものであるので、ここでの比較は省略します。

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2. ロゼレムの服用上の注意事項

2-1. 主な副作用

ロゼレム(ロメルチオン)の服用に関して、メーカーが発表している副作用には、発生率が高い順に傾眠、頭痛、めまい、倦怠感などが挙げられています。これらは、メラトニン受容体に作用する薬剤として、睡眠を促進するために通常見られる副作用であり、薬理学的メカニズムから予測される範囲内の軽微な副作用です。

重大な副作用については、その薬に対する過敏症のみであり、これまでの臨床試験および実施例においてはほとんど報告されておらず、ロゼレムは比較的安全性が高い薬剤とされています。

しかしながら、服用に際しては注意が必要な点もあります。たとえば、ロゼレム常用量を就寝前ではなく何かの作業前に服用すると、注意力や集中力の低下が見られる場合があり、運転や機械操作などには支障をきたす可能性があるため、服用は必ず就寝1時間程度前に行うことが推奨されます。

2-2. 併用禁忌薬

ロゼレムは比較的併用してはいけない薬が少ないのですが、肝代謝酵素のCYP1A2に関与するため、フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)のみ併用してはいけないとされています。ロゼレムの代謝が強く阻害されるために、効果が強く出る恐れがあるからです。

また、併用注意としては、同様にCYP1A2を阻害するキノロン系抗菌剤、CYP2C9を阻害する抗真菌薬のフルコナゾール、CYP3A4を阻害するマクロライド系抗生剤なども、ロゼレムの血中濃度を上げる可能性があり、併用時は医師や薬剤師と相談してからにしましょう。

2-3. 高度な肝機能障害患者

ロゼレムは主に肝臓で代謝されるため、高度な肝機能障害のある患者では血中濃度が上昇し、効果が強く出すぎる恐れがあります。そのため、服用は禁忌となっています。中程度以下の肝障害の患者でも使用には注意が必要です。

2-4. 食事の影響

食後にロゼレムを服用すると、空腹時に比べて血中濃度が低くなり、到達時間も遅くなります。これにより、効果が十分に発揮されない可能性があるため、できるだけ寝る前の食事は避けた方が良いです。

2-5. ベンゾジアゼピン系睡眠薬からの移行

BZD系薬は、一部強力な催眠作用を持つ一方で、依存性や耐性などの問題が知られています。そのため、ロゼレムに切り替えを希望する方もいますが、切り替えには注意が必要です。

特に、トリアゾラムやブロチゾラムといった超短時間型~短時間型のBZD系薬は、強力な作用を持つため、ロゼレム単独では同等の効果が得られない場合があります。BZD系薬の長期使用者がロゼレムに移行する際には、以下のような点に留意する必要があります。

  • 切り替えに伴う離脱症状:特に高用量を長期間使用していた場合、不安や不眠が悪化する可能性があります。
  • 効果の違い:ロゼレムはBZD系薬と作用機序が異なるため、即効性や強力な催眠効果は期待できません。

そのため、OX受容体拮抗薬との併用や、BZD系薬の徐々な減量を検討するなど、専門医による慎重な対応が必要です。また、患者の状況に応じて、他の治療選択肢も含めた総合的な検討が推奨されます。

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3. ロゼレムの応用

次に、ロゼレムのMT2受容体における働きを応用することで、入眠効果以外の作用を引き出すこともできるため、それについて説明します。

3-1. 時差障害

3-1-1. 時差障害とは?

時差障害(いわゆる「時差ボケ」)は、数時間以上の時差がある地域へ高速移動する際に、体内時計(概日リズム)が現地時間に適応できずに生じる症状の総称です。特に時差が4時間以上ある場合、多くの人に影響を及ぼしますが、症状の出方には個人差があります。主な症状として、以下が挙げられます。

  • 睡眠障害(特に途中覚醒が多い)
  • 疲労感集中力の低下
  • 頭重感消化器症状(消化器の不良や食欲不振)

生じる症状としては、睡眠障害が最も多く、その中でも睡眠時の途中覚醒が半数を占めます。他にも、疲労感や頭重感、食欲低下なども起こることがあります。

3-1-2. ロゼレムの時差障害に対する治療

時差障害を軽減する従来の基本的な対策は以下の通りです。

  • 短期滞在の場合:普段の生活サイクルを維持することが推奨されます。
  • 長期滞在の場合:現地の時間に合わせて生活サイクルを調整することが有効です。

薬物療法としては、メラトニンの補充が有用です。メラトニンは、光との相互作用を介して体内時計を調節する働きを持ちます。例えば、東方への旅行では、現地の時間軸に合わせることで睡眠の質を改善し、逆行性のリズム乱れ(旅行後に再度時差ボケが生じる現象)を予防するとされています。

メラトニン受容体作動薬であるロゼレム(ラメルテオン)は、類似した効果を発揮することが期待されています。通常の睡眠障害では8mgの用量で使用されますが、時差障害の軽減目的では少量(1〜4mg)が使用されることがあり、医師の指示の下で調整されます。これは低用量であっても、概日リズムの同調効果を引き出せることを示唆するデータがあるためです。

3-2. 睡眠覚醒相後退障害(DSWPD)

3-2-1. 睡眠覚醒相後退障害(DSWPD)とは?

睡眠覚醒相後退障害(DSWPD)とは、体内時計の調節が乱れることで、睡眠時間が通常より遅く後方にずれてしまう障害です。その結果、夜遅くまで眠れず、朝早く起きることができないため、学業や仕事など、日常生活に大きな支障をきたします。

かつては、「だらしない生活習慣」や「不規則な生活」が原因とみなされることが多かったのですが、現在では睡眠障害の重要な一種として認識されています。特に若年層での発症が多いとされ、社会的影響の大きい障害とされています。疑いがある場合は、専門機関での診断と治療が推奨されます。

3-2-2. ロゼレムの超少量投与による治療

従来のDSWPDの治療では、以下のような生活習慣の改善が基本とされてきました。

  • 就寝・起床時間の段階的調整:10~15分ずつ就寝・起床を早める方法。
  • 光療法:朝の自然光や人工光を十分に浴びることで体内時計をリセットする。
  • ビタミンB12(メコバラミン)の補給:光感受性を高め、体内時計の調整に役立ちます。

しかし、これらの方法だけでは、十分な効果を得られないことが少なくありませんでした。

そこで注目されているのが、ロゼレム(ラメルテオン)のメラトニン受容体MT2の刺激による体内時計調整作用です。従来の用法(就寝前8mg 1錠)では、DSWPDの治療にとっては就寝前だと遅すぎ、1錠であると多すぎると判明しました。

さまざまな臨床試験の結果、以下の方法がDSWPDに対して有効であることが示されました。

  • 服用タイミング夕方(平均18時頃)に服用。
  • 服用量常用量(8mg)の1/10~1/14錠程度の超少量を使用。
  • 効果:3時間ほど睡眠相を有意に前進させることが可能。

この治療法は、体内時計の微調整に特化しており、従来の治療法に比べて効率的であるとされています。ただし、服用量の調整や服用タイミングについては個人差が大きいため、専門医の指導のもとで行う必要があります。

3-3. その他の睡眠障害

ロゼレムは、他の睡眠障害にも治療応用の可能性が示唆されています。例えば、 非24時間睡眠覚醒リズム障害(特に視覚障害者に多い障害で、体内時計が24時間より長い周期を持つことで日中の覚醒維持が困難になるもの)や、 睡眠覚醒相前進障害(DSWPDとは逆に、睡眠相が前倒しになることで、早朝覚醒や夕方の極度な眠気を引き起こす障害)、 不規則睡眠覚醒リズム障害(社会的孤立や一定の生活リズムが失われた場合に発生しやすい障害)などが挙げられます。

これらの睡眠障害にも、一部の研究や最新の治療ガイドラインに基づくと、ロゼレムの少量とよる治療が期待されるとあります。

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おわりに

ロゼレムがOTC医薬品として了承されたというニュースは、非常に注目すべき出来事です。現在、睡眠障害に悩みながらも、専門機関にかかれない、またはかかりたくない方や、従来の睡眠薬を避けたいと考える方にとっては、画期的な選択肢となる可能性があります。

ただし、現在の段階ではOTC化が了承されたにすぎません。そのため、発売が見送られる可能性や、本格的な発売までに相当な時間がかかることも考えられます。ロゼレムの使用を検討している方は、この間に正しい知識を身につけ、適切に使用できる準備をしておくことが重要です。

また、睡眠障害の改善には生活習慣の見直しも不可欠です。しかし、軽度の睡眠障害であれば、本剤がその手助けとなることは間違いありません。正しい使い方を理解し、生活の質を向上させるための一助として活用していきましょう。

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