※本記事は制度改定の全項目を網羅するものではありません。
個人的な重要度を考慮、または実務上の影響が大きいと考えられるポイントを中心に解説しています。
詳細な算定要件については、必ず本元の資料・告示を直接確認してください。
(令和8年3月8日時点で出ている情報を元に作成)
1. はじめに
これまで本ブログでは、令和8年度調剤報酬改定の方向性や制度設計の思想を中心に整理してきました。
しかし、最終的に議論の重心が置かれるのは、やはり「具体的な点数」です。
そして今回、ついに調剤報酬点数表が公表されました。
本稿では、制度理念の解説は必要最小限にとどめ、
示された点数の変化から何が読み取れるのかを丁寧に見ていきます。
薬局にとって、これは理念の話ではなく、現実の数字の話です。
2. 調剤基本料
今回の改定では、調剤基本料はすべての区分で1〜2点の引き上げとなりました。
事前の資料で「調剤基本料は引き上げる」と明示されていたことからも、想定の範囲内といえる内容です。
まず、改定前後の点数を整理します。
■ 調剤基本料 改定前後比
| 区分 | 改正前 | 改正後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 調剤基本料1 | 45点 | 47点 | +2 |
| 調剤基本料2 | 29点 | 30点 | +1 |
| 調剤基本料3イ | 24点 | 25点 | +1 |
| 調剤基本料3ロ | 19点 | 20点 | +1 |
| 調剤基本料3ハ | 35点 | 37点 | +2 |
| 特別調剤基本料A | 5点 | 5点 | 変動なし |
| 特別調剤基本料B | 3点 | 3点 | 変動なし |
基本的には+1点をベースとしつつ、
集中率85%未満の区分(調剤基本料1および調剤基本料3ハ)についてはさらに+1点が加えられています。
単なる物価対応にとどまらず、面応需の度合いが相対的に評価された設計と読み取ることもできます。
(1) 都市部における新規開局への対応
都市部で新規開設される保険薬局のうち、
- 特定の保険医療機関からの処方箋受付割合が85%超
- 月の処方箋受付回数が600回超
という条件に該当する場合、調剤基本料2を算定することとされました。
さらに、厚生労働大臣が定める保険薬局に該当する場合には、
門前薬局等立地依存減算(▲15点) が適用されます。
制度としては、立地依存型モデルの拡大を抑制する方向性がより明確になったと整理できます。
(2) 調剤基本料2の整理と集中率計算の見直し
調剤基本料全体を点数だけで見ると、1〜2点の微増にとどまります。
しかし、集中率の算定方法の見直しや調剤基本料2の区分整理まで含めて考えると、
薬局によっては実質的な減算に近い影響を受ける可能性があります。
まず、調剤基本料2の要件は次のように再整理されました。
- 旧イ:受付回数2,000回以上かつ集中率85%超
- 旧ロ:受付回数1,800回以上かつ集中率95%超
これらが統合され、
- 新基準:受付回数1,800回以上かつ集中率85%超
となりました。
従来は、集中率が95%と極めて高い場合でも区分を維持できる余地がありましたが、
今回の改定では85%基準へ一本化され、制度としてこのラインをより強く意識させる設計になったといえます。
さらに、多くの薬局に直接影響し得るのが、集中率および受付回数の算定方法の見直しです。
- 医療モールなど、同一敷地内または同一建物内の複数医療機関は、1医療機関として扱う
- 特養・老健などの高齢者施設入所者の処方箋は、集中率の計算から除外
従来はこれらの要素によって集中率を抑制できていた薬局も少なくありませんが、
今回の改定ではその余地が縮小しました。
これは単なる点数調整ではなく、
集中率という指標そのものの実効性を高める改定と位置づけられます。
制度の意図としては、形式的な分散ではなく、より広い処方元からの応需、
すなわち実質的な面対応を促す方向性が明確に示されたと整理できるでしょう。
3. 地域支援・医薬品供給対応体制加算
今回の改定において、
地域支援体制加算(以下、旧地域支援加算)は名称・構造ともに大きく再編されました。
最大の変更点は、後発医薬品調剤体制加算の廃止と、
それを新たな「地域支援・医薬品供給対応体制加算(以下、新地域支援加算)」に統合した点にあります。
これにより、従来は
- 旧地域支援加算
- 後発医薬品調剤体制加算
という二層構造で評価されていたものが、
「医薬品供給体制」を軸とする一体的な評価体系へ整理された形となりました。
点数だけを見ると、旧地域支援加算の点数に、
旧後発調の水準(概ね27点相当)を上乗せした再編とも整理できます。
一方で、従来後発医薬品調剤体制加算2・3を算定していた薬局にとっては、
実質的に減算となるケースも想定されます。
そのため、解説の中には「改悪」との評価も見受けられますが、制度の方向性としては、
地域における医薬品の安定供給体制を一体として評価する
という思想がより明確になった改定と整理することも可能でしょう。
3-1. 点数の実態整理
まず点数水準のみを整理すると、
旧地域支援加算の点数に、
後発医薬品調剤体制加算(以下、後発調)の水準を組み込んだ形で再編されたと理解できます。
新旧の対応関係を点数ベースで並べると、以下のようになります。
| 新区分 | 点数(新) | 内訳イメージ | 旧制度での位置づけ |
|---|---|---|---|
| 加算1 | 27点 | 後発調の基礎部分 | 後発調1~3 |
| 加算2 | 59点 | 27+32 | 旧地域支援加算1+後発調 |
| 加算3 | 67点 | 27+40 | 旧地域支援加算2+後発調 |
| 加算4 | 37点 | 27+10 | 旧地域支援加算3+後発調 |
| 加算5 | 59点 | 27+32 | 旧地域支援加算+後発調 |
点数構造だけを見ると、
旧制度における「旧地域支援加算+後発調」を一本化したものであり、
旧地域支援加算の部分だけに着目すれば、点数は実質的に変動していないとも整理できます。
「後発調2・3を算定していた薬局は実質減算」
「旧地域支援のみ算定していた薬局は横ばい」
「後発調1のみ算定していた薬局は再設計を迫られる」
一方で、後発調2・3を算定していた薬局では、
新加算1へ統合されたことで点数が圧縮されるケースが生じます。
3-2. 後発医薬品割合85%基準の影響
新地域支援加算1では、
施設基準の一つとして後発医薬品の規格単位数量割合を85%以上とすることが新たに求められます。
従来の後発調1(80%以上)と比べると、明確にハードルが引き上げられた形です。
これまで80%台前半で後発調1を算定していた薬局にとっては、
今回の基準を満たすために少なくとも5%以上の使用割合の上積みが必要になります。
一方、従来から後発調2(28点)や後発調3(30点)を算定していた薬局は、
現行の算定要件上、すでに85%以上の後発医薬品割合を確保していることになるため、
数値基準そのものは今回の改定によって新たな負担となるものではありません。
■ 経過措置
令和8年3月時点で後発調1を届け出ている薬局については、
令和9年5月末日まで新地域支援加算1を算定できる経過措置が設けられています。
ただし、これはあくまで移行期間であり、最終的には85%基準を満たすことが前提です。
また、制度改定の流れを踏まえると、
後発医薬品の使用割合基準が今後さらに引き上げられる可能性も指摘されています。
そのため、現行基準を安定的に上回る体制づくりを早期に進めておくことが望まれます。
3-3. 在宅実績要件改定の可能性
新地域支援加算においても、従来と同様に在宅医療への関与は重要な評価項目として位置づけられています。
なかでも注目されるのが、単一建物居住者1人に対する在宅薬剤管理の実績要件です。
今回の改定では、在薬総において実績要件の引き上げが行われるなど、
制度全体として在宅医療への実質的な関与をより重視する方向性が示されています。
こうした流れを踏まえると、新地域支援加算において求められる在宅実績についても、
形式的な体制整備ではなく、実際の在宅業務への関与がより重視されていく可能性があります。
従来は、施設在宅を中心に実績を確保する形でも要件を満たせるケースがありました。
しかし今後は、単一建物居住者への個別在宅など、より実質的な薬学管理の関与が求められる方向に制度が整理されていると考えられます。
3-4. 算定要件10項目の再整理
新地域支援加算においても、薬局の実績を評価する基本的な枠組みは従来と大きく変わっていません。
③残薬・相互作用関連、④かかりつけ薬剤師関連、についても、評価項目の位置づけが整理されたにとどまります。
ただし今回の改定では、算定要件の項目数が従来の10項目から9項目へと再編されました。
これは、旧制度で実績要件の一つとされていた服用薬剤調整支援料(1・2)が評価項目から除外されたことによるものです。
それ以外の項目については、内容や必要件数に大きな変更はありません。
算定要件の実績項目は、以下のとおりです。
(①~⑧は処方箋1万枚当たりの年間回数、⑨は薬局当たりの年間の回数)
| 要件 | 基本料1 | 基本料1以外 |
|---|---|---|
| ①夜間・休日等の対応実績 | 40回以上 | 400回以上 |
| ②麻薬の調剤実績 | 1回以上 | 10回以上 |
| ③残薬調整加算・薬学的有害事象等 防止加算の算定実績 | 20回以上 | 40回以上 |
| ④かかりつけ薬剤師による 服薬管理指導料の算定実績 | 20回以上 | 40回以上 |
| ⑤外来服薬支援料1の実績 | 1回以上 | 12回以上 |
| ⑥単一建物診療患者が1人 の在宅薬剤管理の実績 | 24回以上 | 24回以上 |
| ⑦服薬情報等提供料に相当する実績 | 30回以上 | 60回以上 |
| ⑧小児特定加算の算定実績 | 1回以上 | 1回以上 |
| ⑨研修認定を取得した保険薬剤師の 他職種連携会議への出席 | 1回以上 | 5回以上 |
また、各加算区分の算定条件は次のように整理されています。
【調剤基本料1の薬局】
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 新地域支援加算2 | ④を含む3項目以上 |
| 新地域支援加算3 | ①~⑨のうち7項目以上 |
【調剤基本料1以外の薬局】
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 新地域支援加算4 | ④・⑥を含む3項目以上 |
| 新地域支援加算5 | ①~⑨のうち7項目以上 |
今回の改定は、算定要件の枠組みそのものを大きく改めたものではなく、
実績評価の構造をより明確化した「整理的な改定」と位置づけられます。
4. 薬学管理料
4-1. 調剤管理料
⑴ 区分の再編成とその影響
調剤管理料は今回の改定で大きく整理され、従来の細かな4区分から、「27日以下」と「28日以上」 の2区分へ再編されました。
これにより、処方日数に応じて点数が段階的に積み上がる旧来の構造が見直され、薬学的管理の実態をより適切に反映する評価体系へと移行しています。
この再編の背景には、
- 「日数の長短」ではなく「薬剤師の関与の質」を評価したい
- 過度に複雑化した日数区分を整理したい という制度側の意図があると考えられます。
旧制度と新制度の比較は次のとおりです。
| 処方日数 | 旧点数 | 新点数 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 7日分以下 | 4点 | 10点 | +6点 |
| 8〜14日分 | 28点 | 10点 | ▲18点 |
| 15〜27日分 | 50点 | 10点 | ▲40点 |
| 28日分 | 50点 | 60点 | +10点 |
| 29日分以上 | 60点 | 60点 | ±0点 |
最も影響が大きいのは、15〜27日処方が一律10点へと大幅に整理された点です。
一方で、7日以下と28日以上は増点、29日以上は据え置きとなっています。
■ 実務上の影響は薬局ごとに大きく異なる
処方日数は実臨床では7日単位で設定されることが多く、
特に14日処方および28日処方が一定割合を占める傾向があります。
しかし、薬局ごとの処方日数の構成比をレセコンから正確に抽出するのは容易ではありません。
そのため、今回の改定が増収なのか減収なのかを、事前に精密に試算することは難しいのが実情です。
結果として、今回の再編は「薬局ごとの処方構成によって影響が大きく分かれる改定」といえます。
⑵ 内服薬以外の評価見直し
今回の改定では、内服薬以外の調剤管理料についても評価の底上げが行われました。
従来は一律4点であった区分が10点へ引き上げられ、薬剤師の関与をより適切に反映する設計へと見直されています。
ここでいう「内服薬以外」には、次のような薬剤が含まれます。
- 頓服薬
- 内服用液剤
- 外用剤
- 注射薬
これらは、服薬管理の複雑性や患者指導の必要性が内服薬とは異なるにもかかわらず、旧制度では一律4点に据え置かれていました。
今回の見直しは、その実態を踏まえた評価の適正化といえます。
特に、眼科・皮膚科門前など 外用剤の比率が高い薬局では増点方向に働くため、この区分だけを見ればプラス要素となります。
ただし、薬局全体の収支に与える影響は、あくまで内服薬の処方日数構成(27日以下/28日以上)が支配的です。
そのため、内服薬以外の増点がそのまま増収に直結するとは限りません。
今回の評価見直しは、
「外用剤中心の処方が多い薬局にとっては追い風になり得るが、最終的な影響は処方構成に大きく依存する」 という位置づけで捉えるのが適切です。
⑶ 調剤管理加算の廃止
今回の改定では、調剤管理加算(3点)は廃止されました。
本項目は改定影響が▲3点となる部分であり、ポリファーマシー是正への実効性に関する指摘も踏まえ、評価体系全体の整理の中で削除されたものと考えられます。
⑷ 重複投薬・相互作用等防止等加算の改定
今回の改定では、重複投薬・相互作用等防止加算と在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料が再編され、外来/在宅という区分ではなく、薬剤師の介入内容に応じた機能別評価へ整理されました。
新たな評価は次の2本柱です。
- 調剤時残薬調整加算
- 薬学的有害事象等防止加算
従来は
- 残薬調整以外:40点
- 残薬調整:20点
で外来・在宅とも同じ構造でしたが、今回の再編では介入の重みづけが明確化されています。
以下、残薬調整(※)または有害事象等の防止を目的として調剤変更を行った場合の主な点数は次の通りです。
- 在宅患者の処方前後における対応:50点
- かかりつけ薬剤師による対応:50点
- その他の通常の投薬時における対応:30点
主な点数は以下の通りです。
(※)残薬調整による処方日数の変更は原則「7日分以上」が対象ですが、6日以内でも薬剤師の判断と医師の指示があり、レセプトにその理由を記載すれば算定可能とされ、実務に即した柔軟性が確保されています。
今回の改定では、関連点数は従来より引き上げられています。
これを踏まえると、本改定は残薬対応や処方変更といった薬学的介入を制度面から後押しする設計といえます。
すなわち、薬剤師の積極的関与を明確に推進する方向性が示された改定と整理できます。
4-2. 服薬管理指導料
⑴ 基本的な評価構造は維持
今回の改定では、服薬管理指導料の基本的な評価構造に大きな変更はありません。 点数体系は従来どおり、
- 3か月以内の再来局:45点
- それ以外:59点
という枠組みが維持されており、日常的な服薬指導に対する評価は安定的に継続されています。
薬学管理料全体では、かかりつけ薬剤師関連の評価や残薬調整の体系が大きく見直されましたが、服薬管理指導料については、外来での基本的な服薬指導を確実に評価する“基盤部分”として据え置かれた形です。
⑵ かかりつけ薬剤師指導料の統合
今回の改定では、かかりつけ薬剤師指導料および包括管理料が廃止され、服薬管理指導料へ統合されました。
これにより、従来は別建てで評価されていた「かかりつけ薬剤師による服薬指導」は、通常の服薬管理指導料の枠組みの中で算定する形へ整理されています。
統合後は、かかりつけ薬剤師が行っても、その他の薬剤師が行っても、服薬管理指導料の点数は同一となり、名称そのものを評価する仕組みは廃止されました。
あわせて、かかりつけ薬剤師不在時に算定できた特例も廃止され、制度としての整理が進んでいます。
また今回の改定では、かかりつけ薬剤師による指導が服薬管理指導料(イ)へ整理されたことに伴い、
服薬情報等提供料などの算定も併用可能となりました。
従来のかかりつけ薬剤師指導料では、これらの業務は指導料に含まれる扱いとされていましたが、
評価体系の整理により、他の薬剤師による服薬管理指導と同様の扱いとなった形です。
⑶ かかりつけ薬剤師の意義
点数がその他の薬剤師と同じであれば、
「かかりつけ薬剤師である意味はないのでは?」と感じる方もいるかもしれません。
しかし今回の改定では、従来のように「かかりつけ」という名称そのものを評価する構造は見直された一方で、
継続的な関与や在宅対応など、実際の行動を評価する仕組みが新たに設けられました。
■ かかりつけ薬剤師フォローアップ加算:50点(3か月に1回)
かかりつけ薬剤師が当該患者の服薬管理指導料を算定しており、かつ
- 外来服薬支援料
- 服用薬剤調整支援料
- 調剤時残薬調整加算
- 薬学的有害事象等防止加算
のいずれかを算定している場合に、患者または家族の求めに応じて電話等で服薬状況や残薬状況を継続的に確認し、必要な指導を行った際に算定されます。
■ かかりつけ薬剤師訪問加算:230点(6か月に1回)
かかりつけ薬剤師が服薬管理指導料を算定している患者について、患者または家族の求めに応じて患家を訪問し、
- 残薬の整理
- 服薬管理方法の指導
などを行い、その結果を医療機関へ情報提供した場合に算定できます。
つまり制度の評価構造は、
通常の服薬指導 → 同額評価
継続フォロー・訪問などの関与 → 加算で評価
という形に再整理されています。
これは今回の改定が、かかりつけ薬剤師制度を
「名目評価」から「行動評価」へ再設計した
ことを示しているといえるでしょう。
⑷ 吸入薬指導加算の見直し
今回の改定では、吸入薬指導加算の対象範囲と算定間隔が見直されました。
従来は喘息や COPD など慢性呼吸器疾患の患者を中心に算定されていましたが、インフルエンザ吸入薬も対象に含める形へ拡大されています。
インフルエンザ治療薬においても、吸入手技の指導や曝露対策が必要となる実務を踏まえ、
慢性疾患と同様に薬剤師の関与を評価する整理が行われたものです。
主な変更点は次のとおりです。
- 対象薬剤の範囲が拡大(インフルエンザ吸入薬を追加)
- 点数(30点)は維持
- 算定間隔が 3か月 → 6か月 に延長
今回の見直しは、吸入薬の適正使用に対する薬剤師の役割を評価しつつ、
対象の明確化と算定頻度の整理を行った点が特徴といえます。
⑸ 本改定の本質
今回の服薬管理指導料の見直しは、
- かかりつけ薬剤師制度の再設計
- 名目評価から実質的関与への転換
- 継続フォロー・在宅関与の強化
という思想が背景にあります。
点数表の変化は小さく見えても、
評価の重心は確実に移動しています。
5. 在宅医療関連の改定
5-1. 在宅患者訪問薬剤管理指導料の要件見直し
在宅患者訪問薬剤管理指導料は、今回の改定で点数自体の変更はありません。
焦点は、算定ルールと体制要件の整理・明確化に置かれています。
⑴ 算定間隔の整理
従来の「6日以上空ける」という日数基準は廃止され、
日曜日〜土曜日を1単位とする“週1回”算定へと整理されました。
これは、形式的な日数計算ではなく、従来医療機関側に適応されていたように、
在宅現場の実際の訪問スケジュールに合わせやすい形へと制度が整えられたものです。
⑵ 時間外・緊急時の連絡体制の明確化
今回の改定では、
初回訪問時や処方変更時に、時間外・緊急時でも薬剤師へ確実に連絡できる体制を整備し、
その内容を文書で患者へ交付することが明確に求められました(薬袋への記載も可)。
さらに、薬局側で対応が難しい場合には、
在宅協力薬局の連絡体制を明示することも必要とされています。
⑶ 今回の見直しの位置づけ
今回の改定は、
在宅薬学総合体制加算で既に求められていた要件を、
在宅訪問薬剤管理指導料にも明確に適用し、最低基準が引き上げられたと整理できます。
5-2. 訪問薬剤管理医師同時指導料の新設
今回の改定で新たに評価されたのが、訪問薬剤管理医師同時指導料(150点/6か月に1回)です。
医師と薬剤師が同時に患者宅を訪問し、薬物療法の最適化や残薬整理などを協働で行った場合に算定できます。
⑴ 制度の趣旨
この評価が設けられた背景には、在宅医療で顕在化している課題があります。
- ポリファーマシーの是正が進みにくい
- 残薬が慢性的に発生しやすい
- 医師と薬剤師の情報共有が文書情報のみで一方的になりがち
こうした問題は、個々の専門職が単独で対応するだけでは限界があります。
そこで今回の改定では、医師と薬剤師が同じ場で患者の状態を確認し、治療方針と薬学的管理を一体的に調整するプロセスを明確に評価しました。
単なる「同行」ではなく、多職種連携による薬物療法の質向上を目的とした点数であることが特徴です。
⑵ 対象患者
算定対象となるのは、以下のいずれかを算定している在宅患者です。
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料 1
- 居宅療養管理指導料
- 介護予防居宅療養管理指導料
いずれも薬剤師が継続的に薬学管理を行う患者であり、医師との同時訪問によって治療の質が高まりやすい層です。
また、今回の評価は単一建物居住者1人への訪問を前提としており、特養・老健などの施設入所者は対象外です。
これは、個別性の高い薬学的介入が必要なケースに重点を置くための設計といえます。
⑶ 改定の位置づけ
訪問時に医師と薬剤師が同席し、治療方針と薬学的提案をその場で擦り合わせる取り組みは、これまでも現場で行われてきました。
しかし、制度上は明確な評価がなく、実態に見合った位置づけがなされていませんでした。
今回の新設は、
- 医師が治療方針を示し
- 薬剤師が薬学的視点から具体的な調整案を提示し
- その場で最適な薬物療法に合意する
という在宅医療の理想的な協働モデルを制度として後押しするものです。
在宅薬学管理の評価体系が「薬剤師単独の訪問」から「チームでの薬物療法管理」へと一歩進んだ象徴的な改定といえます。
5-3. 複数名薬剤管理指導訪問料の新設
今回の改定では、在宅薬剤管理の安全性をより確保するために、複数名薬剤管理指導訪問料(300点)が新設されました。
医師が「複数名での訪問が必要」と判断したケースに対し、薬局側の訪問体制を評価する仕組みです。
⑴ 算定要件
複数名薬剤管理指導訪問料は、以下の条件をすべて満たす場合に算定できます。
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定している患者であること
- 単一建物居住者1人への訪問であること
- 医師が複数名での訪問を必要と認めていること
- 当該薬局または在宅協力薬局の職員とともに複数名で訪問すること
(同行者は薬剤師に限らず、薬局職員(スタッフ)でも可)
このように、訪問の安全性確保を目的とした柔軟な体制が認められている点が特徴です。
⑵ 制度の位置づけ
複数名訪問が必要となるケースとして、
精神疾患患者なり、訪問時に安全確保への配慮が必要となるケースが念頭に置かれています。
薬剤師1名では安全確保が難しい状況に対し、制度として正式に評価する形です。
訪問看護ではすでに「複数名訪問」の評価が存在しており、
今回の改定は、薬局の在宅業務にも同様の安全確保の視点を導入したものといえます。
在宅医療の現場では、患者の状態によっては複数名での対応が不可欠となる場面もあります。
今回の新設は、そうした現場の実態を制度として正当に評価し、薬剤師が安心して在宅業務を行える環境を整備する意図が明確に示されています。
5-4. 在宅薬学総合体制加算の見直し
今回の改定では、在宅薬学総合体制加算(以下、在薬総)が大きく再設計されました。
点数の引き上げだけでなく、施設基準そのものを「実績重視型」に再構築したことが最大の特徴です。
特に、
- 在薬総1:実績要件の強化
- 在薬総2:施設基準の再設計と評価体系の刷新
という二本立てで整理されています。
⑴ 在宅薬学総合体制加算1(在薬総1)
在薬総1は、在宅業務を一定規模で継続している薬局を評価する位置づけがより明確になりました。
◼️ 点数の見直し
- 15点 → 30点
在宅薬学管理の基盤整備をより高く評価する方向に引き上げられています。
■ 実績要件の強化
算定に必要な在宅関連業務の実績は、以下のように倍増しました。
- 24回 → 48回以上(直近1年間)
対象となる業務は、以下の在宅関連の算定回数の合計です。
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料
- 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
- 在宅患者緊急時等共同指導料
- 居宅療養管理指導費
- 介護予防居宅療養管理指導費
これにより、形式的な体制ではなく、実際に在宅業務を担っている薬局を確実に評価する仕組みへと進化しています。
⑵ 在宅薬学総合体制加算2(在薬総2)
在薬総2は今回の改定の中でも大きく構造が見直された部分です。
■ 施設基準の再設計
従来必須とされていた以下の設備要件が見直されました。
- 無菌製剤処理設備(クリーンベンチ等) → 必須要件から除外
その代わりに、在宅業務の実績を中心とした評価体系へと転換しています。
■ 点数の整理
- 単一建物居住者1人の場合:100点
- それ以外:50点
単一建物1人の訪問をより高く評価する設計は、
「個別性の高い在宅薬学管理」を重視する今回の改定方針と一致しています。
■ 実績要件
以下のいずれかの実績が求められます。
- 麻薬関連加算:年間10回以上
- 無菌製剤処理加算:1回以上
- 小児在宅関連加算:6回以上
さらに、在宅業務全体として以下のいずれかを満たす必要があります。
- 年間240回以上 かつ 単一在宅シェア20%以上
- 年間480回以上 かつ 単一在宅シェア10%以上
上記に加え、
- 常勤換算で3名以上の保険薬剤師が勤務しており、開局中は原則内2名が常駐
→開局中の条件は同じだが、常勤換算で3名以上の条件が追加に - 高度管理医療機器販売業の許可
→前回より改定なし
これにより、点数が倍増した一方、在宅業務を実際に担っている薬局かどうかがより明確に判別される仕組みとなりました。
■ 改定の方向性
今回の見直しは、在宅薬学管理の評価を「体制」から「実績」へとシフトさせるものです。
- 在宅業務の実績を重視する方向へ転換
- 単一建物の個別在宅をより高く評価
- 形式的な設備要件より、実際の在宅関与を評価
つまり、
“在宅医療に本気で取り組む薬局を正当に評価する”
という明確なメッセージが込められた改定といえます。
6. かかりつけ薬剤師制度の改定
今回の改定では、かかりつけ薬剤師制度の評価構造そのものは、すでに前章で述べたとおり
「名称評価」から「実際の関与評価」へと再設計されています。
ここでは、それ以外の制度面での主な変更点を整理します。
6-1. 同意取得手続きの簡素化
従来、かかりつけ薬剤師の同意取得では
・内容や費用の説明
・同意書への署名
・同意書の写しの交付
といった書面手続きが必要とされていました。
今回の改定では、患者または家族から選択・同意を得たうえで、
・薬剤服用歴等に「かかりつけ」の旨を記載
・当該記載ページの写し等を薬局で保管
とする形に整理され、事務手続きは簡素化されています。
ただし、服薬管理指導料の点数は通常の薬剤師と同一であるため、
この変更が直接的な収益増につながるわけではありません。
6-2. かかりつけ薬剤師の施設基準の緩和
保険薬剤師の要件についても、以下のとおり見直しが行われました。
- 当該薬局での勤務時間:週32時間以上 → 週31時間以上
- 当該薬局での継続勤務:1年以上 → 6か月以上
いずれも、かかりつけ薬剤師を選任しやすい環境を整えるための見直しといえます。
一方で、薬局として満たすべき施設基準については、一定の要件が維持されています。
具体的には、薬局全体として薬剤師が安定して勤務していることが求められており、
- 常勤薬剤師の在籍期間が平均して1年以上であること または
- 管理薬剤師が当該薬局に3年以上継続して在籍していること
のいずれかを満たす必要があります。
個々の薬剤師要件は緩和されつつも、薬局としての継続性・安定性は引き続き重視されており、
「選任しやすさ」と「質の担保」のバランスを取った制度設計となっています。
6-3. 服用薬剤調整支援料2の大幅引き上げ
今回の改定で特に注目されるのが、
服用薬剤調整支援料2の大幅な増点です。
従来:110点(施設基準未達の場合90点)
改定後:1,000点
と、大きく引き上げられました。
(※この改定は令和9年6月1日から適用 されます)
ただし算定には
・必要な研修を修了したかかりつけ薬剤師が実施すること
・医師へ文書で提案を行うこと
などの要件が設けられています。
また算定回数にも制限があり、
・同一患者:6か月に1回
・同一かかりつけ薬剤師:月4回まで
とされています。
さらに、必要な研修の内容は一定の経験や知識を前提としたものとなる可能性が高く、
実務上は誰でも容易に算定できる性質の評価ではないと考えられます。
つまり、この1000点という点数は単なる増点ではなく、
高度な薬学的介入を行う薬剤師を重点的に評価する制度的メッセージと
捉えるのが適切でしょう。
7. その他の改定事項
7-1. 物価上昇・賃上げへの対応
近年の物価高騰や人件費の上昇を踏まえ、今回の改定では
薬局の経営環境の改善と職員の賃上げを後押しする評価が新設されました。
まず新たに設けられたのが調剤ベースアップ評価料です。
これは、薬局職員の賃金改善に向けた体制を整備した薬局において、
- 処方箋受付1回につき4点
を算定できる仕組みとなっています。
さらに、物価上昇への対応として調剤物価対応料も新設されました。
- 処方箋受付1回につき1点(3か月に1回)
※令和9年6月以降は2点に増算
とされており、医薬品保管や光熱費など、薬局運営に伴うコスト上昇への対応を目的とした評価です。
もっとも、点数規模としては決して大きいとは言えず、
現場の実感としては「物価上昇に対して十分とは言い難い」と感じる薬局も少なくないかもしれません。
とはいえ、今回の改定では
賃上げや物価高騰への対応を診療報酬の中で明確に位置づけた点は、一つの特徴といえるでしょう。
7-2. バイオ後続品調剤体制加算(新設)
今回の改定では、バイオ医薬品の適正使用とバイオ後続品(バイオシミラー)の普及を促進する観点から、
バイオ後続品調剤体制加算(50点)が新設されました。
この加算は、バイオ医薬品の適切な保管・管理体制を整え、患者に対して十分な説明を行う体制を備えた薬局を評価するものです。
なお、インスリン製剤は対象外とされています。
■ 施設基準(概要)
主な要件は次のとおりです。
- バイオ医薬品の調剤実績のうち、
バイオ後続品の数量割合が80%以上の成分が全体の60%以上となることが望ましい - 薬局内外の見やすい場所に、バイオ後続品の調剤を積極的に行っている旨を掲示すること
■ 関連する評価の見直し
あわせて、特定薬剤指導加算3(ロ:10点)の算定要件も見直され、
- バイオ医薬品の一般名処方による処方箋
- バイオ後続品が処方された患者
に対して、品質・有効性・安全性などについて説明を行った場合が、新たに評価対象として追加されました。
今回の改定では、後発医薬品だけでなくバイオ後続品の使用促進を薬局の重要な役割として明確に位置づけた点が特徴的です。
バイオ医薬品の適正使用を支える体制整備を評価することで、薬局に求められる機能が一段と高度化していることがうかがえます。
7-3. 医療DX推進体制に関する見直し
今回の改定では、薬局における医療DX推進体制の評価が再編されました。 従来の
- 医療DX推進体制整備加算1(10点)
- 医療DX推進体制整備加算2(8点)
- 医療DX推進体制整備加算3(6点)
の3区分は廃止され、電子的調剤情報連携体制整備加算(8点)に一本化されています。
この加算は、医療DX推進のための体制を整備した薬局が月1回算定できるもので、
算定要件として算定月の3か月前のマイナ保険証利用率が30%以上であることが求められます。
従来の制度では、マイナ保険証利用率の基準が期間ごとに段階的に引き上げられてきており、
令和8年3月時点では、従来は利用率に応じて
- 加算1:70%以上(10点)
- 加算2:50%以上(8点)
- 加算3:30%以上(6点)
という段階的な評価でしたが、今回の見直しでは30%以上に一本化されました。
そのため、従来「加算1」を算定していた薬局にとっては減点となる一方、
制度全体としては、現状の普及状況を踏まえた“現実的な基準”に整理されたといえます。
マイナ保険証の利用率が伸び悩む中で、まずは一定水準まで普及を促すことを重視した制度設計と理解できます。
8. おわりに
今回の改定を全体として眺めると、
「やろうと思えば算定できる点数」は確かに増えています。
しかしその一方で、実務負担や求められる体制整備を踏まえると、
必ずしも作業量に見合うとは言い難い評価も少なくなく、
現場の肌感としてはコストパフォーマンスが低下したと感じる薬局も少なくないでしょう。
実際、SNS上の意見を見ても、
「改悪」「門前薬局は厳しい」といった否定的な論調が目立つのが現状です。
(本音を言えば、そう感じる場面は確かにあるはずです。)
とはいえ、調剤報酬の大きな方向性はすでに定まりつつあり、
集中率区分を含め、制度の枠組みが大幅に緩和される可能性は高くありません。
制度には制度なりの“慣性”があり、そこに抗うことは容易ではありません。
そうである以上、これからの薬局経営では、
- 地域支援・医薬品供給対応体制加算を“当たり前の基盤”として整えること
- そのうえで、かかりつけ薬剤師などによる付加価値を積み上げていくこと
が、現実的な戦略となっていくでしょう。
こうした流れは負担増という側面を伴いますが、
見方を変えれば、薬剤師の専門性や関与をより明確に評価する方向へ 制度が舵を切りつつあるとも解釈できます。
今回の改定を単なる「改悪」と捉えるのか、 それとも、薬剤師の役割が変化していく過程と捉えるのか。
その答えは、これからの現場の取り組みが形づくっていくのかもしれません。


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