マイコプラズマ肺炎完全対策ガイダンス

季節性・流行性疾患

1. はじめに

2024年8月現在、ここ数年で減少していたマイコプラズマ肺炎が再び流行し始めたというニュースが報じられました。特に注目すべきは、通常の流行期である秋から冬ではなく、真夏に流行が起こっている点です。また、報告されている年代別の罹患数も、年によって大きく変動しています。これらの変動にはどのような要因があるのでしょうか?また、そもそもマイコプラズマ肺炎とはどのような感染症なのでしょうか?

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2. マイコプラズマ肺炎とは

マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)」という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。この細菌は細胞壁を持たず、抗生物質治療に対して特異な反応を示すため、診断と治療において特別な考慮が必要です。通常は軽度の症状で、発症者が自覚なく活動できることから「歩く肺炎」とも呼ばれます。感染は通年で見られますが、特に秋から冬にかけて増加します。主に14歳以下の小児や青年期に多く発症します。

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3. マイコプラズマ肺炎の動向

以下に公的機関が発表している、マイコプラズマ肺炎患者数の推移を示すグラフを掲載します。

このグラフから、2019年から2020年にかけて大きな変化が見られます。それまで5,000件を下回ったことがなかった報告数が、2020年には急減し、2021年には3桁まで減少しています。また、年代別の罹患率では、10歳未満の割合が大幅に減少し、2023年には例年の割合に戻っています。

この変化の要因としては、2019年から始まった新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと考えられます。COVID-19に対する非薬物介入として、三密(密閉・密集・密接)を避ける行動、リモートワークの普及、大規模なイベントの中止、ほぼ全員がマスクを着用し、換気を徹底するなどの対策が実施されました。これらの対策は、コロナウイルスだけでなく、マイコプラズマ肺炎を含むさまざまな感染症に対しても効果的であったと考えられます。

しかし、コロナ感染症が徐々に収束し、経済活動が再開されると、人々の接触が増加し、マスク着用率が低下しました。このことにより、マイコプラズマ肺炎の罹患率も再び上昇しています。また、感染者が一時的に大幅に減少したことにより、集団免疫が低下し、再流行を引き起こす「ブースター効果」の減少も一因と考えられます。

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4. マイコプラズマ肺炎の症状

4-1. 主症状

マイコプラズマ肺炎の潜伏期間は約2〜3週間です。初期症状には発熱、頭痛、全身倦怠感があり、その後に乾いた咳が現れます。この咳は数週間続くことがあり、進行すると湿性の咳に変わることもあります。鼻炎は特に幼児に多く見られ、耳痛、咽頭痛、胸痛が伴うことがあります。また、一部の患者では皮疹が出現することもあります。気管支炎は一般的に軽症ですが、重症化すると喘息様の症状を呈することがあります。

4-2. 合併症

マイコプラズマ肺炎の合併症は10%未満と比較的少ないものの、以下のような深刻な合併症を引き起こすことがあります。これには、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、心筋炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などが含まれます。これらの合併症は稀ですが、注意が必要です。

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5. 主な感染経路と予防対策

5-1. 主な感染経路

マイコプラズマ肺炎の主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。特に濃厚接触が感染リスクを高めるため、家庭内や学校などで集団感染が発生することがあります。飛沫は、感染者が咳やくしゃみをする際に放出され、それを吸い込むことで感染が広がります。

5-2. 予防対策

通常は短時間における接触による感染拡大はあまりなく、濃厚接触によるものが重傷あると考えられています。よって、普段からのこまめな手洗いが求められます。

もし、感染が疑われるような場合は、家族内においてなるべく共有を避け、感染者専用のものを使用することが大切です。咳が出ているときは、できる限りマスクも忘れないようにしましょう。

現状は特効のあるワクチンは存在しません。感染拡大を防ぐためには、こまめな手洗いと衛生管理が重要です。濃厚接触を避けるため、感染が疑われる場合は、家庭内での物の共有を避け、感染者専用の食器やタオルを使用することが推奨されます。また、咳やくしゃみをする際にはマスクの着用が推奨されます。感染の疑いがある場合は、早期に医療機関を受診し、適切な対応を取ることが重要です。

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6. 治療法

6-1. 主な治療薬

マイコプラズマ肺炎の治療は主に抗生物質を使用します。第一選択薬はマクロライド系抗生物質であり、特に小児においては骨や歯の発育に影響を与えないため、最も安全な選択肢です。状況に応じて、テトラサイクリン系やニューキノロン系も使用されますが、これらは小児への影響を考慮し慎重に投与されます。肺炎マイコプラズマは細胞壁を持たないため、細胞壁の合成を阻害することで抗菌作用を示すβラクタム系抗生物質(ペニシリン系、セフェム系、ペネム系)は効果がありません。

6-2. 治療上の注意点

抗生物質の乱用は耐性菌の発生を招くため、慎重な使用が求められます。近年、マイコプラズマ肺炎に対するマクロライド耐性菌の増加が報告されており、抗生物質の使用は必要最低限に留めることが重要です。成人の肺炎を伴わない軽症例であれば、抗生物質での治療をしないことが推奨されています。

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7. 最新の研究と今後の課題

近年、マイコプラズマ肺炎に関する研究は、特に抗生物質耐性に焦点を当てています。マクロライド耐性菌の増加は、治療の効果を低下させる可能性があり、新たな治療戦略が求められています。また、ワクチン開発に関する研究も進行中ですが、効果的なワクチンはまだ実用化されていません。今後の課題として、耐性菌の抑制と予防策の強化が挙げられます。また、診断技術の向上も、早期発見と適切な治療に寄与するでしょう。

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8. まとめ

  • マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」による細菌感染症。
  • 主に14歳以下の子供に多く発症するが、若年成人の感染も増加。
  • 主症状は発熱、頭痛、咳で、特に咳は長期間続くことがある。
  • 合併症として、脳炎や心筋炎など重篤な症状が発生するリスクがある。
  • 感染は飛沫や接触により拡散し、濃厚接触で感染リスクが増加。
  • 予防にはワクチンがなく、手洗いやマスクなど基本的な衛生対策が重要。
  • 治療にはマクロライド系抗生物質が用いられるが、耐性菌の問題があるため、必要最低限の使用が推奨される。

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