関東でもついに感染か?マダニ媒介による「SFTS」。正しい知識で身を守ろう

季節性・流行性疾患
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1. SFTSの基礎知識

1-1. 概要

最近、ニュースなどで「マダニ」とともに耳にすることが増えた「SFTS」。正式名称は重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)であり、マダニが媒介するウイルスによって発症する感染症です。

原因となるSFTSウイルスは、2009年に中国で初めて確認された比較的新しいウイルスで、日本では2013年から感染報告が始まりました。ただし、後の調査から、それ以前にも国内に存在していた可能性が高いとされています。

このウイルスはエンベロープ(脂質膜)を持つタイプであり、一般的に熱や紫外線、消毒薬に対しては比較的脆弱とされています。そのため、環境中で長く生存することは難しいものの、体内に侵入すると重篤な症状を引き起こすことがあります。

1-2. 感染経路

SFTSは、ウイルスを保有したマダニに咬まれることで感染します。マダニは山林や草むらに多く生息し、春から秋にかけて特に活発になりますが、冬季でも感染報告はあるため、年間を通じて注意が必要です。

屋外でのハイキングや農作業、草刈りなどの最中に刺されるケースが目立ちますが、マダニは特別な場所だけにいるわけではありません。郊外の公園や家庭の庭先にも潜んでおり、庭仕事をする高齢者やペットの散歩中の咬傷被害も報告されています。
つまり、「山に行かないから自分は大丈夫」とは言い切れず、誰にでも感染リスクがあるのがSFTSの厄介な点です。

そして、感染動物(特に猫や犬)の体液や血液を介して人に感染する例も報告されています。実際に、ペットとの接触を通じて感染が疑われた事例もあり、マダニ対策は人間だけでなく動物にとっても重要な課題となりつつあります。

また、近年では日本国内でも、人から人への感染が確認されています。SFTSの重症患者の体液に接触した医療従事者が感染した例もあり、医療機関では適切な感染防御策が求められます。ただし、このようなヒト-ヒト感染は、特殊な状況下に限られており、一般的な日常生活の中で空気感染や飛沫感染が起こる可能性は極めて低いとされています。

1-3. 潜伏期間と症状経過

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、ウイルスに感染してから6〜14日間の潜伏期間を経て発症します。臨床経過は大きく「発熱期」「多臓器不全期」「回復期」の3段階に分けられ、急激な発熱と全身症状で始まるのが特徴的です。

  1. 発熱期(発症1〜7日目)
    • 突然の高熱(38〜40℃)、強い倦怠感、頭痛、筋肉痛などで発症
    • 続いて嘔気・嘔吐・下痢・腹痛・下血などの消化器症状が高頻度にみられる
    • 歯肉出血や紫斑(皮下出血)などの出血症状が出ることもある

  2. 多臓器不全期(8〜13日目)
    • 重症化した場合、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、呼吸不全、肝障害、腎不全、播種性血管内凝固(DIC)などをきたし、急速に多臓器不全へと進行することがある
    • この期間に病状が改善しない場合、致命的となるリスクが高い

  3. 回復期(14日目以降)
    • 一度改善傾向がみられれば、1〜2週間で症状は軽快し、多くは再燃せずに回復に向かう
    • ただし、高齢者や基礎疾患のある人では予後不良となるケースも多く、慎重な経過観察が必要

血液検査では血小板や白血球の減少、肝機能値(ASTやALT)の上昇が多くの症例で見られます。また、尿検査では「顕微鏡的血尿(肉眼では見えない血液の混入)」が、ほとんどの患者で認められています。

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2. なぜ今、SFTSが改めて注目されているのか?

  1. 感染者の増加
    SFTS症例は、2013年に日本国内で初めて報告されて以降、毎年一定数の感染者が確認されています。年次推移をみると、全体としては緩やかに増加傾向にあり、2025年4月末時点での累計感染者数は1,071例に達しています[1]。近年は年間100例前後の報告が続いており、SFTSは今や一部地域にとどまらず、広く注意すべき感染症となりつつあります。

  2. 高い致死率
    特に懸念されているのは、その致死率の高さです。国立感染症研究所のデータによると、これまでに少なくとも127人が届出時点で死亡しており、2024年は11人、2025年もすでに1人の死亡例が報告されています。届出時に死亡していない症例は統計に含まれないため、実際の致死率はさらに高い25〜30%ほどでもあるとも指摘されています。

  3. 動物を介した感染
    以前から、ペットを介した人への感染や、動物の診療に関わった獣医師の感染例は報告されてきました。こうした事例は頻度こそ多くないものの、ヒトと動物の接点を介したSFTSの感染経路として注意が必要とされてきた背景があります。
    そして、2025年に入ってから、三重県にてネコの治療にあたった獣医師が、マダニに咬まれた形跡がないにもかかわらず、SFTSに感染した疑いがあるとの報道がありました。さらに、今夏に関東において動物への初感染が確認されたとのことです。これらの事例により、動物を介した感染リスクが現実のものとして再認識され、動物との接触によるSFTSの感染が一層注目を集めることとなりました。

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3. 予防と治療

3-1. 予防法

SFTSの主な感染経路は、ウイルスを保有するマダニに咬まれることです。そのため、まず「刺されないこと」が最大の予防策となります。特にマダニの活動が活発になる春から秋にかけては、山林や草むら、藪などに入る際には以下のような対策を心がけましょう。

  • 長袖・長ズボンを着用し、首回りも含め肌の露出をできるだけ避ける
  • ズボンの裾を靴下や靴の中に入れるなどして、マダニの侵入を防ぐ
  • ディートやイカリジンなどの有効成分を含む虫除けスプレーを使用する

また、屋外活動後はすぐに入浴し、マダニが皮膚についていないかを全身チェックすることも重要です。小さく見落としやすいため、家族で確認し合うことも有効です。加えて、SFTSは動物(特に猫や犬)からの感染も報告されているため、ペットにマダニが付かないよう定期的な駆虫薬の使用や、外出後のチェックも重要です。

現在、SFTSに対する有効なワクチンは存在していません。そのため、マダニ対策を含む生活上の注意が、現時点で最も確実な予防手段となります

3-2. 治療の方向性

SFTSに対する治療は、患者の年齢や基礎疾患の有無、症状の重症度によって大きく異なります。現時点では特異的な治療法は確立されていないものの、発症後の経過に応じて適切な管理を行うことで、回復を促すことが可能です。

  • 軽症例(若年者や健康な成人の場合)
    • 発熱や倦怠感などの軽い症状にとどまる場合、安静や水分補給などの簡易的な療法のみで自然回復するケースもあります。
    • 症状急変時の対処も考慮に入れ、軽微なら自宅での経過観察が行います。

  • 重症化リスクがある場合(高齢者、基礎疾患あり、確定診断後)
    • 高齢者や糖尿病・腎疾患などの基礎疾患を持つ人では、重症化や合併症のリスクが高く、入院による全身管理が推奨されます。
    • 診断確定後は、早期に薬物治療を開始し、必要に応じて集中治療を行うことが重要です。
    • 特に意識障害や出血傾向が現れた場合には、敗血症に準じた集学的治療が求められます。

3-3. 薬物治療

現状特効薬がないために、対症療法が主流となります。また、近年では抗ウイルス薬が国内で承認され使われるようになり、各症状により薬を追加投与します。

3-3-1. 抗ウイルス剤(アビガン®︎)

2024年6月、抗ウイルス薬「アビガン®(ファビピラビル)」は、SFTSに対して国内で正式に承認されました。それ以前はインフルエンザにのみ使用されていましたが、SFTS患者に対する臨床試験の結果などを受け、重症ウイルス感染症の選択肢として新たに認められた形です。

  • 作用と使用方法
    アビガンは、RNAウイルスの複製を阻害する作用を持つ薬剤です。ウイルスの増殖を防ぐ目的であるため、発症後できるだけ早期に服用を開始することが望ましいとされています。
    • 治療期間:通常10日間の内服
    • 初日は1回9錠を1日2回(合計18錠)服用し、かなりの高用量から始まることが特徴です
    • 2日目以降は減量して、1回3錠を1日2回を継続服用します
  • 主な副作用
    アビガンの頻度の高い副作用としては、以下のようなものがあります
    • 肝機能障害(AST/ALTの上昇など)
    • 下痢
    • 尿酸値の上昇 など
  • 注意点
    また、動物実験において催奇形性が報告されており、妊婦および妊娠の可能性がある女性には使用できません。そのため、以下のような対応が取られます
    • 女性の場合、服用前に妊娠していないことを確認(必要に応じて妊娠検査)
    • 服用中および服用後一定期間は、避妊が必要
3-3-2. 抗菌薬・抗真菌薬・ステロイドなどの補助療法

SFTSはウイルスによって引き起こされる感染症であるため、抗菌薬や抗真菌薬はウイルスそのものには効果がありません。
しかし、重症例では二次感染(二次性細菌感染や真菌感染)を合併するケースが多く、その際には適切な抗菌薬・抗真菌薬の投与が必要となります。特に入院中や免疫力が低下した患者では、敗血症や肺炎などの合併症リスクが高く、培養検査や画像診断などを参考に、原因に応じた治療薬が選択されます。

ステロイドに関しては、現時点では有効性や安全性についての統一的な見解はなく、患者ごとのリスクとベネフィットを慎重に評価した上で判断されるべき治療です。
ステロイドには炎症を抑える強力な作用がありますが、同時に免疫機能を低下させるリスクもあり、細菌感染などを誘発しやすくするおそれがあります。
一方で、重篤な意識障害やショック状態、多臓器不全が疑われるような症例においては、ステロイド投与により生存率が改善したとする報告もあり、一部の医療機関では状況に応じて使用されています。

3-3-2. 解熱剤

SFTSでは発症初期に高熱を伴うことが多く、解熱剤を必要とする場面があります。そして、数ある解熱剤の中では、「アセトアミノフェン製剤」が適しているとされています[2]

その理由として、SFTSは血小板が減少しやすく、出血傾向が問題となるため、使用する薬剤には注意が必要なためです。一般的な解熱鎮痛薬であるNSAIDs(例:イブプロフェンやロキソプロフェンなど)は、血小板の働きを抑えてしまい、出血リスクを高める可能性があるため、慎重な使用が求められます。

その点、アセトアミノフェンは血小板機能に与える影響がほとんどなく、安全性が高いとされており、出血傾向がある疾患でも比較的安心して使用できます。SFTSにおいても、解熱剤として最も推奨される薬剤の一つです。

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4. おわりに

SFTSは、マダニを介して感染するウイルス感染症であり、国内でも毎年報告が続いています。近年では動物や医療従事者への感染事例も報道され、注目が集まっています。

しかし同時に、「死亡例が出たから必要以上に恐れるべき」というわけでもありません。SFTSは致死率こそ20〜30%と高いものの、年間の感染報告数は100例前後と多くはなく、身近に注意すべき感染症である一方、過度な恐怖や偏見を抱く必要はありません。

大切なのは、「正しく知ること」。そして、草むらに入るときの服装や虫除け対策、ペットのケアなど、日常生活の中でできる予防策を意識することです。

過度に怖がる必要はありませんが、軽視せず、適切に備えることが、あなたと家族、そしてペットを守る第一歩です。


【参考資料】

  1. 感染症情報提供サイト「感染症発生動向調査で届出られたSFTS症例の概要(2025年4月30日更新)」
    https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/article/sfts/020/20250523144135.html ↩︎
  2. 厚生労働省・国立感染症センター「重症熱性血小板減少症候群 診療の手引き 2024年版」 ↩︎

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