最新版白癬治療ガイダンス

皮膚疾患

1.はじめに

近年の公的機関の報告によると、日本では水虫などの白癬に感染している患者数は約2,500万人、これは全人口の20%以上に相当し、爪白癬の患者数も約1,000万人にのぼり、全人口の10%弱であると推定されています。このように白癬は、日常生活の中で非常に一般的な皮膚疾患となっています。

しかし、これほど多くの人が感染しているにもかかわらず、正しい治療を受けていないケースが多く見られます。白癬は感染症であり、放置すると他人への感染リスクを高め、自分自身の他の部位にも広がる可能性があります。そのため、適切な知識を持つことが重要です。

本記事では、白癬の基本的な情報や予防法、そして効果的な治療法について詳しく解説します。正しい知識を持ち、適切な対策を取ることで、白癬の感染を減少させ、健康な生活を維持しましょう。

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2.白癬とは

2-1.白癬の定義

白癬とは、白癬菌という真菌の一種の感染により起こる皮膚疾患を言います。一般的に多いのは足や爪への感染であり、この症状を俗に水虫と呼んでいます。他にも、爪や股、体部、頭部などさまざまな部位への発症が認められます。

2-2.白癬菌の特徴

白癬菌は皮膚糸状菌という分類の真菌であり、皮膚の最表皮にある角質層に含まれるケラチンと呼ばれるタンパク質を栄養源として成長します。このため、ケラチンが多く含まれる皮膚や爪などに感染しやすく、一方でケラチンが少ない口腔内などの粘膜部位には感染しません。白癬菌は高温多湿な環境を好み、特に夏季にその増殖が促進されます。しかし、寒冷期にも潜伏し、翌年の高温多湿な時期に再び活動を活発化させることがあります。

性質としては白癬菌は比較的熱に弱く、60度以上の高温にさらされると死滅します。さらに、次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒剤も白癬菌に対して有効です。これにより、感染予防および感染者からの二次感染のリスクを低減することができます。
さらに、白癬菌や他の真菌、細菌はステロイド剤の使用によって増殖することがあります。これは、ステロイド剤が皮膚上の免疫力を低下させるためです。そのため、白癬の治療では原則としてステロイド剤の使用は避けるべきです。

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3.白癬の種類

感染部によりさまざまな呼ばれ方をしますが、原因菌はすべて白癬菌によるものです。原因は同じですが、それぞれ治療の度合いが異なり、足白癬のように適正に治療を行えばすぐ完治するものもあれば、爪白癬のように飲み薬でないとなかなか困難なものまであります。
注意すべき点として、白癬の症状には皮膚のかゆみ、水疱、皮むけ、頭皮の抜け毛、爪の白化や厚くなるなどがあります。しかし、これらの症状が現れたからといって必ずしも白癬であるとは限りません。他の疾患であることも少なくない、正確な診断が重要です。皮膚科専門医による診断を受け、適切な治療を行うことが必要です。

3-1.手・足白癬(みずむし)

最も一般的な感染部位であり、足底、指の間、掌底、指の腹などの毛がない部位への白癬のことです。手・足白癬は症状により3つの型に分けられます。
・指間型: 白癬菌は湿度が高く柔らかい部位より侵入する傾向があるため、まず最初に指間部から感染する傾向が高いです。
・小水疱型(汗疱型): 真菌が指間から指腹や手足の裏に感染が広がると、水疱状のものに移行し次第に皮がむけてきます。ここでは、急性の炎症により痒みが強くなることが多くなります。
・角化型: 炎症が軽くかゆみがない場合が多く、手足の裏に広範囲におよぶ過角化1が主な症状です。

3-2.爪白癬

爪白癬は、手足などに感染した白癬がそのまま放置され、爪甲2及び爪床3またはその両方に感染した状態のことです。進行は爪の先から始まり、徐々に爪の根本の方にいくことが多いです。症状としては、爪が白濁してきたり、放置すると次第に厚くなったり、爪が剥がれたりすることもあります。皮膚に感染した時とは異なり、爪に薬が浸透しにくく治るまでに時間を要します。

3-3.体部白癬(ぜにたむし)

腕や体躯、顔面を含めて産毛が生えている部位にできる白癬のことを言います。症状としては、通常は強いかゆみを伴い、境目がはっきりとした円状の紅斑が見られます。周囲に広がるにつれて、中心の炎症は軽減しますが、色素沈着がのこ凝る場合もあります。ただし、顔面白癬においては、境界線が明確でない場合もあるため注意が必要です。

3-4.股部白癬(いんきんたむし)

外陰部やその周囲に感染した白癬を指します。症状としては強いかゆみの他に、痛みを伴う場合もあります。場合によっては、下腹部や臀部にまで広がる恐れもあります。このタイプは、足白癬の菌が自分自身にうつってなるケースがほとんどであるため、治療は患部全て行う必要があります。

3-5.頭部白癬(しらくも)

頭部白癬は、毛髪に白癬菌が寄生した状態を言い、菌が頭皮のみに感染した状態では頭部白癬の扱いにはなりません。国内では、強い化膿性炎症をもつケルスス禿瘡と、それ以外の頭部白癬に分類されています。

主な頭部白癬の症状としては、斑状に毛髪が抜けたり、フケのようなものが多くなり発赤を伴うこともあります。ケルスス禿瘡は非常に稀ではありますが、かかると化膿性炎症が強く現れもう方から膿が出ることがあります。また抜け毛もひどくなり痛みやリンパ節の腫れも伴う恐れもあります。

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4.白癬の感染経路と予防策

白癬は主に接触感染を通じて広がります。感染者の足や爪などの感染部位に触れることや、感染者が使用したタオル、床、スリッパなどを介して感染が拡大します。そのため、自分自身や他人への感染を防ぐために、次のような対策が重要です:

4-1.他人への感染予防
家庭内では、感染者が使用する物品を専用にすることが重要です。例えば、タオルやスリッパなどの個別使用を徹底し、共有物品を通じた感染リスクを減らします。また、床や部屋内に白癬菌が広がらないように、薄手の靴下を履くことが推奨されます。白癬菌は落ちたアカや皮膚片と共に床などに残り、乾燥しても長期間生存するため、定期的な掃除や消毒が必要です。特に、湿気の多い場所や頻繁に使用する場所では、こまめに掃除を行い、白癬菌の繁殖を防ぎましょう。
4-2.自分自身の感染予防

白癬菌は高温多湿の環境を好むため、特に風呂場、温泉、プールなどの湿気が多い場所では注意が必要です。これらの場所では、裸足で過ごしたり衣服がない皮膚部位が接触した時は、帰宅後はしっかりとシャワーを浴びて白癬菌を洗い流すことが推奨されます。

4-3.感染後の自己感染予防

既に白癬が発症している場合、全ての感染部位を同時に治療することが重要です。例えば、足の裏と爪の両方に感染がある場合、片方だけを治療したとしても再感染のリスクがあります。全ての感染部位を同時に適切に治療することで、完治の可能性が高まります。特に爪白癬はかゆみなどの自覚症状がない分後回しにしがちですが、一緒に治療して治してしまうことが賢明です。

4-4.感染予防のポイント
白癬菌が皮膚に接触しても、直ちに感染が成立するわけではありません。通常、感染が成立するまでには24時間程度かかると言われています。そのため、感染リスクの高い場所に訪れた際には、当日中にしっかりと洗浄を行うことで感染を防ぐことができます。ただし、接触部位にキズがあると感染しやすくなるために、なるべく早い対応が必要であるとされています。

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5.白癬の治療薬

基本的には、抗真菌薬を用い原因である白癬菌を排除することを目的とします。また、症状に応じて内服薬、外用薬、またはその両方を使い分けます。薬を適正に用いて入れば、通常皮膚であれば指示通りに一定期間しっかり続けることで完治させることができます。ただし、爪に入ってしまったものに関しては、すぐには排除できないため、根気よく使用を続ける必要があります。

5-1.よく用いられる外用抗真菌薬一覧

以前は1日何回も塗る必要があり、長期に不向きでしたが、最近の水虫の薬は1日1回のものが多く、下表にもそれのみを記してあります。分類が5種類ほどあり、一つの系統の薬の効果が薄い場合、他の系統に変更すると効果が現れることもあります。

5-1-1.足白癬、体部白癬、股部白癬に適応のある外用薬

現在数多くの種類、剤型の薬が発売されています。注意点としては、液剤がある製品であっても、爪白癬には適応がないことです。

商品名一般名剤型後発分類
アスタットラノコナゾールク・軟・液イミダゾール系
アトラントネチコナゾールク・軟・液✖️イミダゾール系
ゼフナートリラナフタートク・液✖️チオカルバメート系
ニゾラールケトコナゾールク・ロ○※1イミダゾール系
ボレー
メンタックス※2
ブテナフィンク・ス・液○※2ベンジルアミン系
マイコスポールビホナゾールイミダゾール系
ルリコンルリコナゾールク・軟・液△※3モルホリン系
ラミシールテルビナフィンク・液アリルアミン系
剤型略語: ク; クリーム剤、軟; 軟膏剤、ス; スプレー剤、ロ; ローション剤
※1: ニゾラールローションは乳液タイプですが、一部の後発品は化粧水タイプもあります。
※2: メンタックスの外用液とスプレー剤の両剤型は、2025年3月で発売中止となる予定です。
※3: ルリコンのジェネリック品はクリーム剤と軟膏のみ発売されています。

5-1-2.爪白癬に適応のある外用薬

爪白癬の治療薬は、皮膚科で専門医師による検査と確定診断を受けた場合にのみ処方されます。爪のような硬い部位に効果を発揮するため、剤型は液剤のみであり、高濃度で浸透しやすい設計になっています。

【留意点】

  1. かぶれやすい: 高濃度であるため、爪以外の部位に薬が付着すると、皮膚がかぶれる可能性があります。まず少量を皮膚に試し、問題がなければ爪の境目や付け根にも塗布するようにします。
  2. 長期使用と費用: 完治までは長期間が必要であり、費用がかかることがあります。ただし、クレナフィン爪外用液に関しては、2025年に後発品が発売予定であり、コストの低減が期待されます。
商品名一般名後発特記事項
クレナフィンエフィナコナゾール✖️※4容器の先にハケがついていて塗りやすい
ルコナックルリコナゾール✖️塗布部位がフェルト状で、液が出過ぎることがある
※4: クレナフィン爪外用液の後発品は、来年に特許が切れ2025年6月に発売が予定されています。

5-2.現在使用されている内服抗真菌薬

商品名一般名剤型後発特記事項
イトリゾールイトラコナゾール錠・カ※5,6食直後でないと吸収がかなり落ちる
パルス療法4を行うと、短期間の服用で済む
一緒に飲んではいけないまたは注意すべき薬が多い
ネイリンホスラブコナゾール✖️適応は爪白癬のみ(1日1回を12週間のみで良い)
基本妊婦には投与不可
ラミシールテルビナフィン1日1回毎日半年間は飲む必要がある
※5: 剤型には内用液剤もありますが、主に口内や消化管のカンジタに対して用い、爪白癬の適応症はありません。
※6: 先発品の「イトリゾール」はカプセル剤のみ、後発品のみ錠剤とカプセル剤があります。

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6.白癬の各種類ごとの治療法

治療薬の[推奨度]に関しては最新の「日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン」を参照しており、推奨度の高い方からA,B,Cとなっています:

6-1.手・足白癬

足白癬の治療には抗真菌薬の外用剤[推奨度: A]が主要な治療法として使用されます。外用剤にはいくつかの系統があり、それぞれ効果に大きな違いはありませんが、個々の患者によってはアレルギー反応や効果の違いが見られることがあります。このため、効果が感じられなかったり、副作用が発生した場合には、他の系統の薬剤を試すことが考慮されます。

治療を開始してから、かゆみや皮むけなどの症状は通常1〜2週間で改善が見られます。しかし、白癬菌は皮膚の奥深くに残っていることが多く、再発を防ぐためにも指定された期間中に外用薬を継続して使用することが重要です。以下は各型別の治療期間の目安です:

  • 指間型: 2ヶ月以上
  • 小水疱型: 3ヶ月以上
  • 角化型: 6ヶ月以上

症状や個人差に応じて、治療期間は異なることがあるため、医師や薬剤師の指示に従い、適切な期間を守って使用することが推奨されます。角化型のような治りが遅い場合や、外用薬で副作用が出た場合には、内服抗真菌薬の使用が考慮されることもあります。

また、外用薬の塗布方法も重要です。感染している白癬菌を完全に排除するためには、症状のある部位だけでなく、足の裏全体、特に指間や踵を含めて均一に薬を塗布することが必要です。自覚症状がなくなったからといって治療を中止すると、再発のリスクが高まるため、医師の指示に従って継続的に治療を行うことが重要です。

6-2.爪白癬の治療

爪白癬の治療には、原則として内服抗真菌薬が使用されます[3種類すべて推奨度: A]。爪は薬が浸透しにくいため、内服薬が最も効果的とされています。内服抗真菌薬には、爪に長期間とどまり短期間の服用で効果を発揮するものもあり、患者の状態や薬剤の特性に応じて選択されます。特に、有効性と副作用および服用期間を考慮すると、イトラコナゾールのパルス療法が推奨されています。

一方で、内服薬が使用できない場合や、外用薬を希望する場合には、爪白癬の治療に適応を持つ外用薬も選択肢に入ります。現在、2種類の外用薬が爪白癬に適応されていますが、その効果は内服薬に比べてやや劣ります[ともに推奨度: B]。外用薬を使用する場合、効果を得るためには根気強く1日1回の塗布を継続する必要があります。

爪白癬の治療で最も重要なのは、既に感染している爪の白癬菌を除去は困難であり、新たに生えてくる爪に白癬菌が感染しないようにすることです。爪が完全に生え変わるには約1年程度かかるため、治療期間も長期にわたることが多いです。特に感染が進行している部位では、6〜9ヶ月間の治療が必要とされることがあります。

また、爪白癬がなかなか改善しない場合には、尿素密封外用療法を補助的に用いることがあります。これは、尿素を含む外用薬を使用して爪甲を柔らかくし、除去する方法です。この方法により、薬剤の浸透が良くなり、治療効果が高まることがあります

6-3.体部・股部白癬の治療

通常、体部および股部白癬の治療には外用抗真菌薬が用いられます[推奨度: A]。外用薬がしっかりと塗布できない場合や、治りが悪い、再発を繰り返す場合には、内服抗真菌薬が推奨されます[推奨度: A]。

外用剤を用いる場合も塗り方や塗る期間は、適正に行わなくてはいけません。足白癬の時と同様に、かゆみや見かけ上何もなさそうなところにも白癬菌がいることを想定し、患部よりやや広範囲に塗る必要があります。塗る期間に関しても、自覚症状が治るまでではなく医師の指示があるまで定期的に使用する必要があります。

外用薬を使用する際には、適切な塗り方と塗布期間を守ることが重要です。以下のポイントに注意して使用してください:

  1. 広範囲に塗布: 白癬菌は見かけ上何もないような部分にも存在することがあるため、患部よりやや広範囲に薬を塗布することが必要です。これにより、見えない菌をも含めて効果的に治療できます。
  2. 継続的な使用: かゆみや見た目の症状が改善された後も、医師の指示に従い、定められた期間まで薬を使用し続けることが重要です。自覚症状が消えたからといって治療を中止すると、再発のリスクが高まります。
  3. 正しい塗布方法: 薬を塗布する際は、清潔な手を使い、指示された量を均一に広げます。特に股部では、湿気がこもりやすいため、しっかりと乾燥させてから薬を塗布することが推奨されます。

6-4.頭部白癬

原則としては内服抗真菌薬であるテルビナフィンもしくはイトラコナゾール[ともに推奨度: A]により治療を行います。また、家族内での感染拡大予防に抗真菌剤が入ったシャンプーを用いることもあります。市販品としてコラージュフルフルシャンプーが販売されています。ただし、この場合でもできることなら内服薬も併用することが推奨されています。

頭部白癬の治療は、内服抗真菌薬の使用が原則です。特に、テルビナフィンまたはイトラコナゾール[ともに推奨度: A]が効果的です。これらの薬剤により、外用剤では効果が出にくい頭部にも十分な治療をもたらすことができます。

家庭内での感染拡大を防ぐために、抗真菌成分を含むシャンプーの使用が推奨されます。市販品としては、コラージュフルフルシャンプーが利用できます。このシャンプーは、ミコナゾール硝酸塩などの抗真菌成分を含んでおり、頭皮の真菌感染を抑制する効果があります。ただし、できることならばこの場合でも、内服の抗真菌薬を併用することが望まれます。

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7.まとめ

白癬の治療には正確な診断と適切な治療が不可欠です。内服抗真菌薬と外用抗真菌薬をその病態や性質に合わせ使用することが効果的で、治療を継続することが再発防止に重要です。また、家庭内での感染予防策として、個別のタオルやスリッパの使用、定期的な掃除と消毒を徹底することが求められます完治させるためには、治療を行う際に感染者全員が一緒に行うことが必要となります。

また、通常の湿疹との区別も適正にしなくてはいけません。ただの湿疹と思いステロイド剤を使用してしまい、悪化してしまう事象も少なからず見受けられます。白癬らしきものを治療を開始する時は、自己判断を避け少なくとも最初は医師の正しい診断を受けましょう。

皆さんが白癬の正しい知識を持ち、適切な対策を講じることで、感染の拡大を防ぎ、健康な生活を維持できるよう願っています。

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