グレープフルーツジュースが薬にNGな本当の理由。“血圧の薬とダメ”だけでは不十分!?

薬学

1. はじめに

薬局で薬を受け取るときに、「血圧の薬とグレープフルーツジュースは一緒に飲まないでください」と説明を受けたことはありませんか? おそらく多くの方が一度は耳にしたことがある注意点でしょう。
しかし、実際に影響を受けるのは本当に血圧の薬だけなのでしょうか。オレンジやレモンなど、ほかの柑橘類は大丈夫なのでしょうか。そして、なぜ“ジュース”に特に注意が必要なのか・・・。

こうした疑問は、薬を飲むときに頭をよぎるものの、「言われた通り避けておけば大丈夫だろう」と深く考えずに済ませてしまう人も少なくありません。
本記事では、グレープフルーツジュースが薬と“相性が悪い”本当の理由を、薬理学的な背景から分かりやすく解説します。さらに、影響のある柑橘類の種類や具体的な薬名、注意すべき飲み方についても触れます。日常のちょっとした習慣が薬の効き方に大きく影響することがある――その事実を知るきっかけにしてください。

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2. グレープフルーツジュースが薬にNGな理由

2-1. 薬に影響を与える成分

まず、「グレープフルーツが薬に影響を与える理由」は、その果実に含まれる「フラノクマリン類」という成分にあります。中でも、ベルガモチンと、さらに強力な作用を示すジヒドロキシベルガモチン(DHB)は、特に注意すべき化合物です

これらのフラノクマリン類は、薬の分解をつかさどる肝臓で作られる酵素CYP3A4の働きを低下させます。たとえば、ベルガモチンはCYP3A4を“仕組み的に”止める作用「mechanism-based inactivation」があります。これは、長時間にわたって作用が続く性質があり、結果として薬の血中濃度が高まり、効果が過剰に出たり、副作用が現れやすくなります。

また、グレープフルーツジュースが特に有名なのは、このCYP3A4を介して代謝される薬が非常に多く、そのため影響が広範囲に及ぶ可能性があるためです。

2-2. CYP3A4が関連する薬

グレープフルーツジュースによる影響で特に知られている薬としては降圧剤がありますが、実はコレステロールを下げる薬や免疫抑制剤、抗てんかん薬など、さまざまな種類の薬剤にも影響を及ぼす可能性があります。これらの薬剤は長期間の服用が多いため、薬の作用や副作用が強まることで疾病の治療に支障をきたす恐れがあり、注意が必要です。

以下に代表的な薬剤の種類と例をまとめました。

薬の種類代表的薬剤ポイント
降圧薬
(カルシウム拮抗薬)
フェロジピン(スプレンジール®︎)、
ニフェジピン(アダラート®︎)、
ニトレンジピン(バイロテンシン®︎)
血中濃度上昇のリスクが高く、必要以上の血圧効果には注意が必要となる。Ca拮抗薬の中では、アムロジピンは比較的影響が少ないとされるが、個人差あり脚[1]
脂質異常症治療薬
(スタチン系)
シンバスタチン(リポバス)、
アトルバスタチン(リピトール®︎)
CYP3A4代謝で、濃度上昇により、筋障害リスクあり。スタチン系の中では、ロスバスタチンなどは影響少ない1
免疫抑制剤シクロスポリン(ネオーラル®︎)、
シロリムス(ラパリムス®︎)
血中濃度が上昇しやすく、毒性リスクや感染症リスク増の可能性。
抗てんかん薬カルバマゼピン(テグレトール®︎)CYP3A4代謝で、血中濃度上昇により急性中毒のリスク。
睡眠薬トリアゾラム(ハルシオン®︎)代謝阻害による作用強化により意識障害、転倒リスク。
抗血小板薬シロスタゾール
(プレタール®︎)
血中濃度上昇により、出血傾向リスク。
鎮痛薬(オピオイド)フェンタニルなど中枢抑制や呼吸抑制のリスク上昇。

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3. なぜグレープフルーツ「ジュース」であるのか?

グレープフルーツのどの部分に、薬との相互作用を引き起こす成分が多く含まれているか、ご存じでしょうか?実は、この影響を与える「フラノクマリン類」は、果肉や種子よりも果皮(皮の部分)に多く含まれています脚[2]

市販されているグレープフルーツジュースは、製造過程で果肉だけでなく、果皮に近い部分も一緒に絞られていることが多いため、フラノクマリン類が濃縮されやすいのです。つまり、ジュースの方が果実をそのまま食べるよりも、薬との相互作用が起こりやすい状態になっていると言えます。

もちろん、果肉や果汁にもフラノクマリン類は含まれているため、ジュースでなくても大量に摂取すると薬に影響を及ぼす可能性があります。しかし、日常的に飲むジュースはこの成分を効率よく体に取り込むため、特に注意が必要です。

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4. 他の柑橘類は大丈夫?

前述のとおり、薬への影響はフラノクマリン類の含有量によって変わります。この成分は、グレープフルーツ以外の一部の柑橘類にも含まれているため、注意が必要です。特に、ベルガモチン(BG)や6’,7’-ジヒドロキシベルガモチン(DHB)の含有量が高い品種では、CYP3A4阻害作用が強く、薬物相互作用のリスクが高まります脚[3]

なお、品種や加工方法(果汁化、濃縮、果皮混入など)によっても成分量は変わるため、薬との飲み合わせが気になる場合は、特に含有量の多い外皮の部分を用いられている製品には注意すべきです。

現在の分析データから見ると、日本でよく食されている温州みかんについては、果肉・果皮ともにBGおよびDHBはほぼ検出なしと報告されており、比較的安全性は高いとされています脚[4]

○影響が大きいとされるもの

  • 甘夏みかん
  • はっさく
  • ダイダイ
  • ばんぺいゆ
  • レモンの果皮

○影響が小さいまたはほぼないとされるもの

  • いよかん
  • 温州みかん
  • ネーブル
  • ぽんかん
  • ゆず
  • レモン果汁(果皮を含まない搾汁)

以上を踏まえると、「柑橘類はすべて避けるべき」というわけではありません。たとえば、レモンの果皮(特に外皮)を削って使用するとフラノクマリン類の摂取量が増える可能性がありますが、果汁のみを絞って利用する場合は、含有量が低く安全性が高いと考えられます。

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5. グレープフルーツジュースと薬に関するQ&A

5-1. 何時間か間隔を開ければ、グレープフルーツジュースを飲んでも良いですか?

グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン類は、薬を分解する酵素CYP3A4を不可逆的に阻害するため、その影響は飲用後数時間ではなく、24時間以上、場合によってはそれ以上持続することも報告されています脚[5]

したがって、単に薬とジュースの間に数時間の間隔を空けるだけでは、酵素の働きが回復しておらず、薬物代謝が抑制されたままの状態で薬を服用することになります。このため、薬を飲んでいる間はグレープフルーツジュースを避けるのが安全です。

5-2. ジャムやマーマレードなどならば大丈夫ですか?

一般に、グレープフルーツなどの果皮を使ったジャムやマーマレードは、フラノクマリン類の含有が多いことから、薬との相互作用リスクが高いと考えられています。果皮を加工した食品は、ジュース以上にフラノクマリンが含まれている場合もあり、注意が必要です。

しかし一方で、フラノクマリン類は熱に不安定で加熱処理により大幅に分解・減少することが研究で示されています脚[6]。たとえば、長時間の煮沸や加熱によってフラノクマリン類の量は著しく低下し、安全性が高まる可能性があります。

したがって、自家製で十分な加熱を行ったマーマレードやジャムは、市販の生絞りジュースに比べて相互作用のリスクは低いと考えられます。ただし、加工条件や製品によって成分量は大きく異なるため、市販品の利用時には成分情報がわからない限り注意が必要です。

5-3. 薬の説明書に、もし記載がなければグレープフルーツジュースを飲んでも大丈夫ですか?

通常、薬の添付文書(今ではネットなどで検索すれば誰でも閲覧可)や薬局で受け取る薬の説明書(薬情)には、グレープフルーツジュースとの併用を避けるよう明確な注意書きが記載されています。しかし、CYP3A4が関与する薬剤は非常に多岐にわたり、中にはグレープフルーツとの相互作用が示唆されているものの、まだ添付文書に記載がない薬も存在します。・

例えば、精神安定剤のクエチアピン(セロクエル®︎)などがその一例です。したがって、薬の説明書に注意書きがない場合でも、安心せず、薬局や医療機関で事前に相談し、専門家の指導を受けることをおすすめします。


【参考資料・文献】

  1. Tapaninen T, Backman JT, Neuvonen M, Neuvonen PJ, Kivistö KT. “Effect of grapefruit juice on the pharmacokinetics of amlodipine and its active metabolite.” Clin Pharmacol Ther. 2005 Jul;78(1):73-84. ↩︎
  2. De Castro W. V., Mertens-Talcott S., Rubner A., Butterweck V., Derendorf H., J. Agric. Food Chem., 54, 249-255 (2006). ↩︎
  3. Fukuda K, et al. “Quantitative analysis of furanocoumarins in citrus fruits.” Food Chemistry, 194, 1428–1433 (2016). ↩︎
  4. 宮崎県(2023).「県産柑橘類のフラノクマリン含有量調査報告書」, 宮崎県農政水産部. ↩︎
  5. Paine MF, et al. (2004). “Mechanism-based inhibition of human intestinal cytochrome P450 3A4 by grapefruit juice components.” Drug Metabolism and Disposition, 32(3), 321–328. ↩︎
  6. Girennavar B, et al. (2006). “Effect of heat processing on furanocoumarin content and CYP3A4 inhibitory activity of grapefruit juice.” Journal of Food Science, 71(4), C264–C269. ↩︎

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