手足口病完全対策ガイダンス

季節性・流行性疾患

1.手足口病とはこんな病気

1-1.定義

手足口病とは、その名称が示す通り、口の中や手足などに水疱状の湿疹が主な症状である、ウイルスが原因で起こる感染症をいいます。

1-2.疫学

主に夏に流行し、7月下旬にピークを迎えます。5歳以下の乳幼児が90%と大多数を占めます。学童以上になると、大半はすでにウイルス感染や不顕性感染1を受けている場合が多いため、成人での発症はほとんどありません。

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2.手足口病の原因や感染経路

手足口病はエンテロウイルス属のウイルスによって引き起こされ、主に接触感染や飛沫感染などでうつります。特に感染しやすい期間は、発症してから1週間が最も強いため、より注意が必要です。

2-1.原因ウイルス
  • コクサッキーウイルスA16
    手足口病の最も一般的なウイルスであり、軽症例が多いです。
  • コクサッキーウイルスA6
    重症例を引き起こすことがあり、発熱も39℃前後になります。また発疹部位も異なり、臀部にも出ることがあります。
  • エンテロウイルス71
    さらに重症例を引き起こすことがあり、脳幹脳炎や小脳失調などの合併症による死亡例もあります。
2-2.感染経路
  1. 接触感染:戯れあうことによる患部の直接的な接触や、舐めたりしてウイルスが付着したおもちゃに触れるなどによる感染です。
  2. 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみ、会話による飛沫を吸い込むことで感染します。
  3. 糞口感染:感染者の便から排出されたウイルスが手などに付着し、そこから口に入り感染します。トイレ後の手洗い不徹底や、おむつ替えの際の付着などが原因です。

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3.手足口病により出る症状

3-1.症状
  • 発疹:一番主要な症状で、口の中、手のひら、足の裏や甲に数mm大の水疱状の発疹が出ます。時に、肘や膝、臀部に出ることもあります。特に、口内の水疱は数日後に破れて潰瘍になり、ひどく痛みを伴い食事を取れなくなる場合も見られます。
  • 発熱:約1/3程度に見られますが、通常38℃以下の中程度であることが多く、高熱が続く様なことはほとんどありません。
  • その他の症状:嘔吐や下痢などの胃腸系の症状、頭痛や倦怠感などを伴う場合もあります。
3-2.合併症
  • 中枢神経合併症:稀ではありますが、幼児を中心として髄膜炎、小脳失調症、急性弛緩性麻痺、脳炎などを生じるため、早めの医療機関への受診が必須です。
  • 爪甲脱落症:手足口病による症状が改善してから1〜2ヶ月後くらいに、爪が剥がれ落ちてしまうことがあります。コクサッキーウイルスA6に感染したときになりやすいようです。ただし、これはウイルスにより一時的に起きただけのものなので、しっかり生えてくるまで患部を保護しておけば問題はありません。
3-3.経過

ウイルスの感染後、おおよそ3〜5日間の潜伏期間を経て発症します。発症後は手や足、口内に発疹が広がり、安静にしている限りは5〜7日程度で発疹も引いてきます。発疹の多くは、カサブタにならず痕になることもほとんどありません。

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4.手足口病の治療法

現在のところ、手足口病の原因ウイルスに特異的に効果がある薬はありません。また、手足口病はほとんどが軽症で自然に治る病気であるため、経過を見ながら症状に応じた治療を行います。基本的には、症状が落ち着くまで家で安静にしていることが一番です。

4-1.対症療法

(1)解熱鎮痛剤
高熱でつらそうにしていたり、痛みがひどい時に限って使用します。幼児であれば特にアセトアミノフェン製剤、他にはイブプロフェン製剤が安心して飲ませられます。アスピリン製剤はライ症候群2を起こすことがあり、避けるべきとされています。

(2)水分補給
脱水症状を防ぐために、十分な水分摂取はとても重要です。口内は発疹で痛みが強いことがあるため、冷たいもので補給すると良いです。また、痛みで食事が十分取れない場合は、経口補水液を利用して電解質などの補給もおすすめです。

(3)口腔内のケア
口内では水疱が破れ、潰瘍になることで著しい痛みを感じることがあります。食事はスープやゼリーなど刺激の少ないものを与えると良いです。また、清潔を保つために適度なうがいも行います。痛みが強い場合は、1%濃度の塩水でうがいすると幾分和らぎます。

4-2.医療機関での治療

重症な合併症もあるため、経過観察をしっかりと行い、継続する高熱、ひどい頭痛や嘔吐、呼吸が乱れ息苦しい、水分が不足で排尿もない、ぐったりとしているなどの症状がみられた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

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5.手足口病の予防や対策

手足口病の予防には、日常生活での注意が不可欠です。ウイルスの感染を防ぐためには、基本的な衛生管理と感染者との接触を避けることが重要です。以下に、具体的な予防方法と対策を挙げます。

(1)手洗いの徹底
トイレの後、外出後、食事後の手洗いを徹底し、石鹸と流水でしっかりとウイルスを洗い落とすことが重要です。アルコール消毒に関しては、手足口病の原因ウイルスにはエンベロープ3がないため、あまり効力を発揮しないことを念頭に置いておきます。

(2)清潔な環境の維持
子供が触れるおもちゃや家具を定期的に消毒することで、ウイルスの拡散を防ぎます。次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤を薄めたもの)などを使用すると効果的です。また、タオルやコップなども共有のものは避け、各自専用のものを使用しましょう。

(3)感染者の隔離
感染者がいる場合、家庭内で接触を最小限にし、感染が広がらないようにします。特に、手洗いや消毒を徹底し、感染者と他の家族との接触を減らします。
学校や保育園に関しては、症状が治るまで休み、他の子供達への感染拡大を防ぎます。

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6.類似疾患ヘルパンギーナとの違い

6-1.ヘルパンギーナとの類似点

(1)原因ウイルス
どちらもエンテロウイルス属のウイルスによって引き起こされるため、ヘルパンギーナも同様にアルコール消毒は効きづらいものとなっています。

(2)流行性
ヘルパンギーナは夏風邪とも呼ばれ、手足口病と同様に夏に流行期があり、5歳以下の幼児がほとんどであることも同じです。

(3)予防や治療
手足口病同様に、ヘルパンギーナも徹底した手洗いや衛生面の管理、感染者の隔離などが主な予防となります。また治療も水分補給や対症療法のみです。

6-2.ヘルパンギーナとの相違点

(1)発疹の分布
ヘルパンギーナは口内、特に口蓋(口内の上部)および咽頭部に発疹が集中し、手足などには見られません。

(2)発熱のパターン
手足口病は微熱から中等度の発熱が見られますが、ヘルパンギーナは突然の高熱を出すことが多いです。

(3)感染者の状態
手足口病は広範囲に発疹が広がるため、一見ひどく思われがちですが、意外と元気なことが多いです。一方、ヘルパンギーナは高熱により、辛そうな状態になります。

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7. 手足口病についてのQ & A

Q1. 手足口病の症状が現れたらすぐに医者にかかるべき?
A1. 多くの場合、手足口病は自然に治るため、家で安静にしているのが第一です。ただし、高熱が続く場合や、ひどい痛み、または中枢神経症状(激しい頭痛や意識障害など)が現れた場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

Q2. 手足口病に罹ったら、絶対に保育園や学校を休ませなくてはいけないの?
A2. 学校保健法の第3種に分類されており、明確な出席停止期間の規定はありません。そのため、出席停止の扱いにはなりません。ただし、本人や他の子供達の感染を考えると、「発熱がなくなり全身状態が回復し、通常の食事が摂れる状態」に戻ってからが推奨されます。

Q3. 手足口病は1度かかったらもうかからないと思っていい?
A3. 一度かかったウイルスに対しては抗体ができ、通常は再感染しません。ただし、感染していない他のウイルスに対しては抗体ができておらず、手足口病に再びかかってしまう恐れがあるため注意が必要です。

Q4. 大人にはうつらないの?
A4. 感染した子供を介して、または赤ちゃんのおむつ替えなどにより、数としては少ないですが大人でもうつることがあります。また、大人の方が重症化することもあるため、感染した幼児と接するときは衛生管理を徹底させる必要があります。

Q5.体内のウイルスも1週間程度で消失するの?
A5. 症状自体が治っても、飛沫や便が感染源になることもあり、一定の注意は必要です。ただし、元気な子供を長期間休ませることは現実的ではありません。感染のリスクを減らすために、手洗いや消毒などの衛生対策を継続することが重要です。

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8. まとめ

  • 手足口病とは、名の通り手と足や口内に水疱を主徴とするウイルス感染症のことをいう。
  • 主に夏に流行し7月がピークを向かえる。5歳以下の感染が9割であるが、成人でも感染することがある。
  • 原因ウイルスは、エンテロウイルス属の数種類のウイルスである(コクサッキーウイルスA16型、エンテロウイルス71型など)。
  • 感染経路は主に糞口感染を含む接触感染や飛沫感染である。
  • 主症状は手足や口の発疹、発熱は約1/3であり高熱になることは少ない。
  • 稀に髄膜炎や小脳失調症などの中枢神経症状が合併症として起こり、早めの医療機関での処置が必要。他にも爪甲脱落症などの合併症もある。
  • ワクチンなどは現状なく、痛みが強ければ鎮痛剤、脱水を防ぐために水分補給など対症療法が主な治療となる。
  • 予防は徹底した手洗い、衛生面の管理、家庭内での隔離が重要となる。
  • 同類の疾病であるヘルパンギーナとの大きな違いは、高熱が出るか、発疹が口内だけにとどまるかなどがあり、見分けはつきやすい。
  • 登園や登校は法的に明確化はされていないが、「発熱や口内の潰瘍などの影響がなく、普段の食事が摂れる」まで回復してからが望ましいとされている。

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