急増する梅毒の実態!正しい知識で自分と周りを守る方法

季節性・流行性疾患

1.はじめに

1-1. 梅毒とはどういうものなのか?

梅毒は、「梅毒トレポネーマ」という細菌が原因で発症する感染症です。主に性行為を通じて感染し、世界中で多くの症例が見られます。口内や性器に初期症状として痛みのない潰瘍ができることが多いですが、全身にさまざまな症状を引き起こす可能性があります。適切な治療を受けなければ、病気は進行し、二期梅毒では皮膚に発疹が出るほか、発熱や疲労感が見られます。さらに進行すると、心血管や脊髄、他の臓器にも深刻な影響を及ぼす恐れがあります。

1-2. 梅毒感染者の現状

近年、日本における梅毒感染者は急増しています。特に、2010年代以降に梅毒の報告者が急増し、2022年には今までにない感染者数が報告されました。梅毒の感染拡大には、検査体制の強化、性的行動の変化、社会的な要因などが影響していると考えられます​。

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2.梅毒の感染経路

2-1. 性行為による感染

梅毒の主に性的な接触を通じて感染し、以下のような行為がリスクを高めます。

  • 陰茎や膣および肛門、口腔を介した性行為
  • 性行為の際に、コンドームを使用しないまたは正しく使用しなかった場合
  • 感染者の病変部位に直接接触する

以上により、原因の細菌が粘膜や皮膚の小さな傷から体内に侵入し感染が広がってしまいます。

2-2. 母子感染(垂直感染)

梅毒は妊娠中の母親から胎児へと感染することがあります。これは「先天梅毒」と呼ばれ、以下のようなリスクがあります。

  • 胎盤を通じて母親から胎児への細菌感染
  • 先天梅毒により、流産や早産、死産のリスクが増加
  • 産まれてきた子に神経や骨などの発達異常を生じる可能性

妊婦が梅毒に感染した場合でも、早めに適切な治療を受けることで胎児への感染リスクを大幅に減らすことができます。また、梅毒は接触感染であるため、赤ちゃんへのキスでも感染することがありますが、母乳からの感染は通常ありません。

2-3. その他の感染

稀にではありますが、感染者の血液や体液、または病変部位に直接接触することで感染する可能性があります。

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3.梅毒の進行と症状

3-1. 第1期(初期梅毒)

梅毒に感染してからおよそ3週間から3ヶ月の期間に現れます。性器、肛門、口唇などの感染部位に、痛みのない硬く浅い潰瘍である硬性下疳が形成されます。この潰瘍は数週間程度で自然に治癒しますが、治療を受けない限り病原菌は体内に残り続けます。

3-2. 第2期(二次梅毒)

原因菌が体内で増殖し、皮膚のみに限らずあらゆる臓器を侵します。病変は多種にわたり、皮膚症状がない場合もあり、以下のような症状を現します

  • バラ疹:手のひらや足の裏を含む全身にできる赤い斑点
  • 脱毛斑:後頭部からサイドにかけて広範囲に、もしくは小さな斑状の脱毛
  • 扁平コンジローマ:陰部や肛門周囲に後発する、扁平状のイボ

これらの皮膚症状は他の皮膚疾患と紛らわしいため、診断には注意が必要です。さらに、精神神経症状、胃潰瘍、腎炎など、さまざまな臓器に病変が生じることがあります。

3-3. 第3期(晩期梅毒)

治療を受けずに放置すると、感染から数年後に現れます。この段階では他者への感染力はほぼなくなりますが、以下のような重篤な症状が現れる恐れがあります。

  • 心血管症状:大動脈瘤などの心血管系の症状
  • ゴム腫:皮膚や骨、内臓にできる硬い結節
  • 進行麻痺:脳や脊髄に影響を及ぼし、認知症や麻痺を引き起こす

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4.梅毒の検査と診断方法

梅毒の診断には、主に梅毒抗体検査(梅毒トレポネーマ抗体検査とRPR検査)が用いられます。

4-1. 梅毒トレポネーマ抗体検査

(ⅰ)陽性の場合:現在梅毒に感染しているか、過去に感染歴があることを示します
(ⅱ)陰性の場合:梅毒に感染していないことが多いですが、感染初期の潜伏期の可能性もあるため、1ヶ月後に再検査を受けるとより確実です

4-2. RPR検査(非特異的検査)

(ⅰ)陽性の場合:現在梅毒に感染中であることを示します
(ⅱ)陰性の場合:感染していないことを示すことも多いですが、感染初期であると偽陰性(本当は感染しているのに陰性と出てしまうこと)となることもあります

【同時検査の重要性】
検査精度を向上させるために、梅毒トレポネーマ抗体検査とRPR検査の両方を同時に行うことが重要です。手作業による測定ではなく、専用機器を用いた自動化法により、測定誤差を最小限に抑えた診断が強く推奨されます。

4-3. PCR検査

本来感染症のの診断には、PCR検査が最も適切とされていますが、梅毒PCRの場合は技師の熟練度が高くないと検出感度が低くなることがあります。また、現時点では保険適用外であるため、PCR検査は補助的な手段として考えられます。

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5.梅毒の治療法

5-1. 梅毒の治療薬

【第一選択薬】ペニシリン系薬剤のどちらか一つを選択
・ベンジルペニシルベンザリン筋肉注射(以下BCGベンザリン注)
 ・早期梅毒(第1および2期):1回のみの筋注
 ・後期梅毒:週1回、計3回の筋注
・アモキシシリン
 ・1回500mg(250mgを2錠またはカプセル)を1日3回、28日間服用

第二選択薬】アレルギーでペニシリン系薬剤が使用できない場合
・ミノサイクリン
 ・1回100mgを1日2回、28日間服用
 ・胎児に一過性の骨発育不全などの弊害が出る恐れがあるため、妊婦には通常使用しない

5-2. 治療時の副反応

a. ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応
 ・治療開始直後に、発熱や頭痛、皮疹などの症状が見られる場合がある
 ・反応はほぼ24時間で収まるため、薬はそのまま継続
 ・症状がひどい場合は、対症療法として解熱鎮痛剤を使用
b. ニコラウ症候群
 ・BCGベンザリン注使用後、患部に激しい痛みや腫れが見られる場合がある
 ・正しい部位や深さで筋注を行えば、ほとんどの場合予防可能

5-3. 治療の効果判定

  • RPRと梅毒トレポネーマ抗体の同時測定を約4週間ごとに実施
  • 測定は診断時と同様に、自動化法が望ましい

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6.梅毒の予防策

現状、梅毒に対するワクチンは存在しないため、別の予防手段を取る必要があります。

6-1. 性的接触時の注意点

  • コンドームの使用:性交時の使用により、大幅に感染を減らせます。ただし、感染部位を覆い尽くせない場合は感染リスクがあるため、完全な予防策ではありません
  • 定期的な性感染症検査:複数の性的パートナーがいる場合や、新しいパートナーとの関係が始まる前などに、定期的な検査が重要になります

6-2. 梅毒の早期発見と治療

  • 早期発見の重要性:梅毒は初期段階で発見し治療することで、症状の進行を防ぎ、他者への感染リスクを低減させることができます
  • 症状のチェック:梅毒の初期症状として、性器や口、直腸に痛みのない潰瘍(硬性下疳)が現れることがあります。このような症状が見られた場合、早急に医師の診察を受けることが重要です

6-3. 性的パートナーへの通知と治療

  • パートナー通知:梅毒に感染した場合、性的パートナーにも通知し、検査と治療を受けてもらうことが重要です。これにより、感染の連鎖を断ち切ることができます
  • 共に治療を受ける:自分だけでなく、性的パートナーも同時に治療を受けることで、再感染を防止し、健康な関係を維持することができます

6-4. 公的な窓口での相談

梅毒は性感染症という側面から、家族や知人、医療機関へ気安く相談はし難いものです。そのような方に、プライバシーが守られた相談窓口が多数あります。

  • 保健所:全国の保健所で、性感染症に関する相談を無料で受けられます
  • エイズ相談センター:エイズだけでなく、その他の性感染症も相談が受けられます
  • 性感染相談ダイヤル:専門のカウンセラーが対応します
  • オンライン相談サービス:NPO法人などもあります

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7. 梅毒に関するQ & A

Q1. 梅毒は完治しない病気なのですか?

A1. そんなことはありません。主に抗生物質により、適切な治療を受ければ完全に治癒することはできます。

Q2. 症状がなければ放置しても大丈夫でしょうか?

A2. いいえ。感染している場合、原因菌は体内に残り続け、数年後には重大な合併症を引き起こす恐れがあります。少しでも感染の可能性がある場合は、早めに医師の診察を受けることが推奨されます。

Q3. 梅毒の検査は難しいですか?

A3. 今はとても簡単に抗体検査などが受けられます。地域によっては匿名、無料で受けられる保健所もあります。

Q4. 梅毒は昔の病気なのではないのですか?

A4. 一時期は減少しましたが、特に若年層や性行動の多様化により、近年再び増加傾向にあります。

Q5. 梅毒は同性間の感染が多いと聞きましたが?

A5. 男性間の性的接触による感染が多いとはされていますが、異性間でも感染のリスクは存在します。

Q6. 梅毒は一度治療すれば、再感染はしませんか?

A6. 一度感染すると梅毒トレポネーマに対する抗体ができますが、抗体は十分に持続しないため、再感染する可能性があります。

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8. 梅毒に関するまとめ

  • 梅毒とは、梅毒トレポネーマという細菌による性感染症である
  • 感染者数は、一時期減少も2010年代から増え始め、近年さらに増加している
  • 感染経路は主に性行為であり、母子感染もあり母子共に悪影響を及ぼす
  • 検査は医療機関で簡単に受けられる。ただし、感染当初は陰性となるおそれがあるため、再検査が推奨される
  • 治療は主にペニシリン系抗生剤で行い、適切な治療で完全に治癒する
  • 一度感染後治癒しても、再感染のリスクは存在する
  • コンドームによる予防はとても有効だが、完全予防ではないため注意が必要
  • 性的パートナーがいる場合、共に治療を受けない再感染の可能性が出る
  • 安全な公的相談窓口は多く存在するため、安心して早めに相談すべきである

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